092 言質とったから!

ウォーレン歴9年 陽春の月28日 朝




 翌朝。私は晴れやかな気持ちでアレンさんの部屋をノックした。


「アレンさーん?」


「ハイィ……」


 ぐったりした様子で戸を開けて出てきたアレンさんは、いつも以上にもさもさな頭をかきまわした。


「見事に二日酔いですヨォ……」


「ふふ、けっこう飲んでたもんね」


「序盤はエスターに飲まされたようなァ?」


「気にしない気にしなーい。ほら、朝食に行こうよ!」


「なんだか上機嫌ですネェ……?」


 アレンさんをぐいぐい引っ張って、食堂に向かう。昨日しっかり聞いたけど、ちゃんと意識がある状態でも確認しないとね!


 一緒に朝食を頼んで、席に着く。食前の祈りをささっとすませて、私は早速アレンさんに切り出した。


「アレンさん、私とコンビ解消するのさみしいって思ってくれてるんだよね?」


「ホァェ!?」


 アレンさんが変な声を出して固まった。口をぱくぱくさせて、持ち上げかけていたスプーンを下ろす。


「えっとォ……それはァ、もしかして昨夜のことでしょうかァ……?」


「うん!」


「よいお返事ですネェ!?」


 がっくりとうなだれるアレンさん。なんだか面白くなってきたけど、確認しないといけないことはまだ確認できていない。


「で、コンビ解消のことは――」


「この間も言った通りィ、最初からそのうち解散することは私もわかっていたことでしてェ」


 早口で私の言葉をさえぎるアレンさん。でも私も負けていられない。


「私は納得してないし、昨日の夜、アレンさんも『さみしいよ』って言ってたよ?」


 アレンさんの口調を真似して言うと、アレンさんはふるふると首を横に振った。


「ソレは酔っていたからうっかり言ってしまっただけでェ」


 慌てたように言葉を続けるアレンさん。だけど……。


「……うっかりってことは、本心?」


「グギュゥ」


 アレンさんがまた変な声を出して固まった。下手な鳥の鳴き声じゃあるまいし。


「じゃあ……本心か本心じゃないかで言うと?」


 こころもち上目遣い気味に訊ねてみると、アレンさんは諦めたように大きくため息を吐いた。


「……本心、ですゥ」


「やったー!」


「喜ぶところなんですかァ!?」


 びっくりしているらしいアレンさんに、そういえばあのときは酔っていたから記憶がないんだ、と思い至る。


「昨日の夜も言ったけど。私もコンビ解消はさみしいって思ってる」


「エスター……」


 アレンさんはぽつりと私の名前を呼ぶ。私はにっこりと笑った。


「詠唱魔法のことはまだわからないし決められないけど。私はアレンさんとのコンビを続けていきたいって思ってるから」


 そう言うと、アレンさんは薄い唇にきれいな弧を描いて、ありがとうございますゥ、とお礼を言ってくれた。


 そのあと食事に戻った私たちだけど、アレンさんが前髪の奥をごそごそしていたのはなんだったんだろう。感動して泣いてた、とか……まさかね?




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