090 フォアの町の酒場
ウォーレン歴9年 陽春の月27日 夜
「ねえ、アレンさん」
フォアの町の酒場でお酒を飲みながら、アレンさんに話しかけた。
「なんですかァ?」
「この1年、いろんなことがあったよね」
「そうですネェ。エスターと出会ったのがァ、ちょうど1年前くらいでしたネェ」
アレンさんはちびちびとお酒を飲みながら、思い出すようにふと斜め上を見上げる。私もつられて上の方を見た。
「最初は私がアレンさんの魔術道具を大暴走させちゃって大変だったよね」
「本当ですヨォ。でも、アレがなかったら今がないと思うとォ、不思議な感じですネェ」
「ほんとに。私なんてこの1年で貯金額がめちゃめちゃ増えたし」
「アハハ。頑張ってましたもんネェ」
「アレンさんのおかげだよ」
アレンさんはお互いさまですネェ、とまたコルヒを口に運ぶ。
「ケミスの町でいろんな依頼をしたよね」
「そうですネェ。最初は風車を回す依頼でしたかァ」
「そうだった! ……あれって、アレンさんの腕力で回したんだよね?」
「私はエスターの風魔法の補助をしただけですヨォ。多少頑張りましたけどネェ」
……あのときは、アレンさんが実はしっかり筋肉のついた人だなんて知らなかった。それを知ったのは、隣町に行く依頼をしたときだ。
「トーマスさんとジミーさん、元気かなあ」
「あァ……いろんなことを教えていただきましたネェ」
「貯金目標額が決まったの、あのときだもん」
「ちゃんと貯めたエスターはすごいですヨォ」
「えへへ」
他にも、いろんなことがあった。私もラッカ酒をちびちび飲みながら思い返す。
「森が火事になったときは大活躍したけどふたりで倒れちゃったりね」
「そんなこともありましたネェ。あれは我ながら無茶をしたしさせてしまったと思いますゥ」
「私はなんのことかいまいちわかんなかったけどね?」
「アハハ」
そしてそのあと、モーラに出会ったのだ。
「モーラ、今どうしてるかなあ」
「『森のヌシ』をしっかりやっているでしょうネェ」
「ふふ、そうだね」
森のヌシの座をかけて戦ったら火事を起こしてしまった、なんていうドジなところもあるけど、モーラはそのへん真面目だ。
アレンさんはくいっとグラスの中身を飲み干す。
「あ、アレンさん、グラスが空だね?」
「目ざといですヨォ、エスター?」
「すみません、コルヒのロック追加で!」
「エスター……」
しゅんと肩を落とすアレンさん。でも私の決意は固いのだ。
「話を戻そうよ。冬は露店したり雪まつりがあったり、楽しかったよね」
「そうですネェ」
届いたグラスでまた乾杯をする。アレンさんがだんだんゆらゆらしてきた。よし、この調子だ。
「エスターと露店をするのは楽しかったですネェ。王都でお医者サンを探す間に暇があったらまたやりたいものですゥ」
「いいね、楽しそう!」
私もラッカ酒をおかわりした。お酒が回ってきたのか、私もふわふわする感じだ。
「旅に出てからもいろいろあったよね」
「そうですネェ。エスターの鼻歌を覚えた鳥の魔物は今どうしているでしょうかァ」
「元気だと、いいね……」
私は思わず苦笑してしまう。私の音痴な鼻歌を覚えてしまって、恥ずかしい思いをしていないといいんだけど。
「ロッジで踊ったりもしたよね」
「足がつって大変でしたネェ?」
「えへへ」
アレンさんはグラスを傾ける。私も一緒にこくりとお酒を飲んだ。
「そのあとは――」
言いかけて、アレンさんの首がこてん、と傾いたのを見て、私は心の中でぐっとこぶしを握った。アレンさんの手から滑り落ちそうになるグラスを受け取って、テーブルに置く。
――私の作戦は、ここからだ。
エスター財布:315ユール62セッタ
エスター口座:14,238ユール50セッタ
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