088 仲直り!

ウォーレン歴9年 陽春の月25日 夜




~~~~~


 アレンは父親とふたりきりのテーブルに取り残されてしまい、所在なく椅子の上で縮こまった。


「お前、酒は?」


「え?」


 飲めるのか、飲めんのか、と問い直される。アレンはきょとんとしながら首を横に振った。


「どうやらそんなには飲めないみたいで……」


「じゃあ適当に酒じゃないの頼んでおけ」


「は、はい」


 店員にアサク酢を頼んで、届くまで沈黙が落ちる。久しぶりすぎる再会に、お互いにどう接したらよいのか悩んでいるらしかった。


 飲み物が届くと、ロビンは自分の酒杯を口に運ぶ。アレンもちびりと口をつけた。


「エスター、といったか。あのお嬢さんに、お前の話を聞いてやれと言われてな」


「……うん」


 さすがに親の前で口調をつくろう気はない。アレンはこくりと頷いた。こうしていると、小さい頃に戻ったようだ。


「でも、僕が高等学校を中退したのも、しばらく父さんに謝れなかったのも……事実だし。それで父さんが呆れてしまったというなら、話せることはないよ」


 ロビンは視線をレストランの窓にやってため息を吐いた。


「……お前は昔から、なんでも自分で決める癖がある」


 突然なにを言い出すのかとアレンがぽかんとすると、ロビンは苦笑した。


「魔力が少なくていじめられたと泣いたと思ったら、人を寄せつけない口調で喋り始めるし。高等学校の受験の手続きも勝手に進めて、残りは俺の許可を得るだけになってから話を持ちかけてくるし。面接対策とか言って髪は紫に染めるし」


「えっ……と」


 だから、とロビンはアレンに向き直る。


「受取拒否をした俺に、呆れられたのだろうとお前が早合点したのだろうというのも、想像に難くない」


「本当は違うってこと?」


「高等学校に送り出した時点で、お前は立派な大人だ。男手ひとつで育てたにしてはよくやった。学費も出世払いで返してくれればいいし……だが、中退する前に、俺に一言あってもよかったんじゃないか」


「…………」


 つまり、ロビンが言いたいのは。


「手紙じゃなくて、直接会いにくればよかった……ってこと?」


「まあ、そうなるだろうな。いつもいつも一方的なお前と、大人の男同士として、きちんと話がしたかった。お前がそれを嫌がっている、というのが、腹立たしかった」


 なんというすれ違いだろう。アレンはもさもさの前髪の奥でくしゃりと顔をゆがめた。


「その……ごめんなさい」


「まあ、俺は俺で短気だったと思うしな。構わん」


 今こうして話ができているのだから、もうなんでもいい。そう言って、ロビンはまた酒を口に含んだ。


「お嬢さんに感謝しろよ。本当はお前が自分でやらなきゃいけないところを、半分やってくれたんだからな」


「はい。……彼女は、大切な相棒だからね」


「同じことを、あの子も言っていたぞ」


「照れるな」


 ふたりは笑い合う。自然と、本当に自然と笑い合えるのが、嬉しかった。それもこれも、エスターのおかげだ。


 アレンはロビンの顔を覗き込む。ロビンが頷いたので、向こうに座っているエスターに手を振った。


「エスター!」


 エスターはぱっと顔を上げる。期待半分、不安半分の目でこちらを見てくるので、アレンはそのままエスターを手招きした。


「一緒に食事をしまショウ! ちゃあんと仲直りできましたヨォ」


「やった!」


 エスターは自分の手元にあったグラスを持ってこちらに向かってくる。大切な相棒にもその口調なのか、とロビンにからかわれて、恥ずかしいんだよ、とアレンは苦笑した。




アレン財布:433ユール50セッタ

アレン口座:52,258ユール38セッタ

      →39,758ユール38セッタ

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