第八章 いざ王都へ

085 突然の再会

ウォーレン歴9年 陽春の月22日 夜




 私とアレンさんはリィ湖を渡り、閉門ぎりぎりに次の町、グランの町に入った。


 まずは荷解きをする宿を探そうと、これまでと同じように大通りを歩く。……なんか、アレンさんがソワソワしてる気がする。


「アレンさん?」


「い、いえェ……そのォ……」


「?」


 アレンさんは言いにくそうにもごもごと口ごもってしまう。私はなんだろう、と小首を傾げつつ、また宿を探すほうに意識を戻した。


 やっぱり王都に近いだけあって大きな町だ。ケミスの町の倍以上は幅がある大通りも、今歩いている中央通りの他に東通りと西通りがあるみたいだから、単純計算で6倍の広さ?


 向こうに見えているギルドの建物も、教会も、ずいぶん立派。生活水準が違うなあ……。


 高すぎずぼろすぎない宿を探してきょろきょろしていると、あっちにもこっちにもお店、お店。


 うわ、園芸店だ。さすがにこの時間だから閉まってるか。


 もうひと月近くほとんど植物を触っていない。ひとつだけお気に入りの小さな鉢植えを持ってきてはいるんだけど、それだけじゃやっぱり物足りなかった。


 ……明日は魔術道具の材料を買いに行くことになるだろうし、ついでに見るだけでも寄れないか訊いてみようかな……。


 そんなふうに私の意識がちょっとよそに逸れた、そのとき。


「ぐぎゅゥ!?」


「え!?」


 アレンさんが奇声を上げた。正確には、通りすがりの誰かに盛大にげんこつを落とされた悲鳴。


 スリとかに気を張っていないわけじゃないし、普通そういう通り魔? みたいなのには引っかからないはずだよね……?


 私は状況を把握できずにおろおろする。アレンさんの頭を叩いたおじさんが、じっとアレンさんの顔を見つめ、重々しく口を開いた。


「なんでお前がここにいる。アレン」


 知り合い……? それにしては雰囲気がすごく刺々しい。アレンさんは痛むのだろう頭に手をやりながら顔をそむけた。


「……旅をしていましてェ」


「旅、か。つまり通りすがりだと」


「そういうことですゥ」


「ふん……」


 お互いに顔も見ずに淡々と会話をして、鼻を鳴らしたおじさんは雑踏へまぎれてしまう。アレンさんがしょんぼりと肩を落としたので、私はアレンさんの顔を下から覗き込んだ。


「……知り合い?」


「そのォ……父、デス」


「ええ!?」


 アレンさんはすっかり立ち止まっていた私を歩くように手でうながす。隣に並びながら、ぽつぽつと話をしてくれた。


「私はもともとはここ、グランの町出身でしてェ」


「ふむふむ」


「当然のように生家があるわけですネェ」


「そうだね」


「父にうっかり遭遇したらどうしようかと気を揉んでいたのですがァ、やはり会ってしまいましたァ……」


 憂鬱ですゥ、と首を垂れるアレンさん。私はちょっとためらったあと、もう一度アレンさんの前に回り込んだ。


「なんでお父さんと会いたくなかったのかって……聞いても、いい?」


「…………」


 アレンさんは少し考えて黙り込む。ややおいて、こくりと頷いてくれた。


「エスターにならァ、話してもいいかもしれませんネェ」


 アレンさんはしゃんと背筋を元に戻して、私の体を前に向けて背中をそっと押す。


「知らないふりをしていましたがァ、この町のことならお任せをォ。ひとまずいい宿に入りまショウ」


「ありがとう!」


 アレンさんと、アレンさんのお父さん。いったいなにがあったんだろう……?




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