083 【湖ウナギ】

ウォーレン歴9年 陽春の月22日 昼




 出港してしばらく。外周席の即席パーティもさまになってきた。


 湖から出てくる魔物は水系統が多い。そこでまず私が「感電餌」でひきつけて痺れさせる。


 そのあと、闘士のお兄さんが【茨拳】でとどめを刺したり、魔法士のお姉さんが【雷撃】でとどめを刺したり。だいたいそんなふうに連携ができている。


「いやー、嬢ちゃんのそれ、面白いな!」


「ありがとうございます。アレンさんが作ってくれたんですよ」


「へえ」


「たいしたことではありませんですゥ、ハイ」


 アレンさんが床に下ろしている木箱の裏側にそそくさと隠れてしまったのはさておいて。私は闘士のお兄さんに素朴な疑問を投げかけてみた。


「あの、レジューム地方って全体的に魔物が強いんですか? 私はニーグィ地方から来たんですけど、だんだん強くなってる気がして」


「ああ、なんかそうみたいだよな。俺も旅はこれが初めてだからなんとも言えねえが、王都の周囲に近付くともっとやばいって話だ」


「……? 普通逆のような気がしますけど」


「よくわかんねえよな。……おっと魔物だ!」


 こんな感じで時々出てくる魔物を倒しつつ、世間話をしつつ、船は進む。あ、そういえば船酔いはしないですんだみたい。


 だんだん空がオレンジ色に染まり始めたころ。突然船の横で爆発したように水が激しく跳ね上がった。


「なに!?」


「なんだ!?」


 外周席がざわめく。水しぶきがばちゃばちゃと落ちて、隠れていた姿があらわになると――。


【湖ウナギ】シーリアグ……!」


 闘士のお兄さんがぎりっと歯を噛みしめた。


 ぬらりとした紺色の太くて長い胴体、ギザギザの歯がついた大きな口。真っ白で本当に見えているのかよくわからない瞳をぎょろりとこちらへ向けた。


 さながら、マッドワームの水属性版、という感じだろうか。魔力量は……近くにいる魔法士のお姉さんの5倍くらい。


 つまり、ケミスの町の森で出会ったマッドワームと同じくらいってことか……。この湖のヌシだったりするんだろうか。


 ……とか考えてる場合じゃない!


 私はとりあえず「感電餌」をばっとばらまく。シーリアグは興味は示したけど、食べはしなかった。


【雷イントゥヌイ撃】ット・イクト!」


 魔法士のお姉さんが詠唱を唱えて、強い雷魔法がシーリアグに叩きつけられる。シーリアグはいらだったようにうねった。


 これは強敵……!


「アレンさん!」


「さくっと『飛雷針』を描き替えますネェ!」


「もちろん強敵仕様で!」


「了解ですゥ!」


 その間は「感電餌」を投げまくったり、「魔力瓶」で後方支援だ。外周席のひとがみんなで協力してシーリアグと戦っている。


 シーリアグはといえば、船をかじろうとしたり、私たちを食べようとしたり、氷魔法を降らせてきたり、なかなか凶暴だ。


「エスター! できましたヨォ!」


 アレンさんが改造した「飛雷針」を、ぐわんぐわん揺れる船の上でしっかりと受け取る。


「そー……れ!」


 杖の先をくるくる回して……シーリアグに、当たれ!


 杖の先にできたもくもくの雷雲から大きな電撃が飛んでいって、幸運なことにシーリアグの目に当たる。


 グギャァァァ、と悲鳴を上げたかと思ったら、シーリアグは湖に盛大に落下していった。


「やっつけた……?」


「よっしゃー!」


 誰からともなく歓声があがる。なんとか撃退できたみたい!




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