081 リィ湖乗船口
ウォーレン歴9年 陽春の月22日 昼
今日は移動の日。朝からクィドの町を出た私とアレンさんはぽつぽつと話をしながら街道を進んでいる。
しばらく歩いて町の門が後ろに見えなくなった頃、街道が突然途切れて、その先に広い水面が見えてきた。
「湖……?」
「そうですヨォ。リィ湖といいましてェ、街道沿いを通っていた川が流れ込んで溜まっているところですネェ」
「アレンさん、相変わらずなんでも知ってるね」
「それほどでもォ」
そのまま歩いていくと、そのリィ湖がとてつもなく大きいのがわかってくる。
「アレンさん、これ……どうするの?」
「迂回するとかなり遠回りになりますからァ、みんな乗り合いの船で渡りますネェ」
「船!」
船なんて乗ったことがない。ワクワクしながらさらに進むと、大きな船がいくつも停まっているのと、その近くにいくつか小屋があるのが見えてきた。
「あの一番大きい建物が乗船口ですヨォ」
「ほええ……」
「ちなみにィ、その近くに屋台が出ていることが多いですネェ」
「え、楽しみ!」
さらにワクワクしてきた。足取りも軽く進んでいくと、陽が高く昇った頃、乗船口に着く。
「船の中で食べるのにバッチョはどうですか? 鳥の形にアサクの花の形! アサクの香りもつけてますよ」
「うちはフラシェスが10種類! 美味しいですよー」
乗船受付口に並んでいる人に、向かい側にある屋台から声が飛んでいる。
バッチョは砂糖を溶かしてふわふわにしたのを動物や花の形にしたお菓子で、フラシェスは雪まつりでモーラが食べていた氷漬けのフルーツのお菓子だ。
「見てきますかァ?」
「えっと、どうしよう」
私がそわそわしているのに目ざとく気付いたアレンさんが声をかけてくれるけど、まずはチケットを買うのが先のような気がする。
「並んでおきますのでェ、順番がきそうになったら戻ってきてくだサイ。ハイ、いってらっしゃいィ」
「え、あ、え」
とん、とアレンさんに背中を押されて、私はオロオロしながら屋台のほうに足を向けた。
……アレンさん、最近私が落ち込みがちなのを心配してくれているんだろうか。
「あ、お嬢ちゃん、うちのバッチョにつられてきたな?」
「うちのフラシェスのほうだろ?」
屋台のおじさんたちに声をかけられて、私は意識を引き戻す。どっちも凝っていて、すごくおいしそうだ。
「どっちもおいしそうです」
素直に言うと、屋台のおじさんたちは顔を見合わせる。
「じゃあ一個ずつ買ってくのはどうだ? うちのおすすめはこのアサクのやつだな」
バッチョのおじさんが言うと、フラシェスのおじさんもいいな、と笑った。
「こっちはラッカのが意外とうまいぞ」
「じゃあそれぞれおすすめをひとつずつお願いします! 一緒にきた人と半分こしますね」
「おう、そうしてくれ!」
それぞれに料金を支払って、ひとつずつ受け取る。ほくほくしながら列に戻ったら、ちょうど私たちにチケットの順番が回ってきたみたいだった。
「おォ、ひとつずつ買ってきたんですネェ」
「半分ずつにしたらいいかなって思って」
「いいですネェ」
窓口のお姉さんが、おふたり様ですね、と言うので、ふたりそろって頷く。
「外周席料金がおひとり30ユール、屋内席料金がおひとり45ユールとなっておりますが、いかがなさいますか?」
「なにが違うんですか?」
私が訊くと、お姉さんは少し申し訳なさそうにする。
「外周席にはたまに湖から魔物が出てくることがございまして。対応はお客様にやっていただくぶん、お安くなっております」
私はアレンさんと顔を見合わせた。もちろんどっちにするかは決まっている。
「外周席2枚、お願いします!」
エスター財布:290ユール59セッタ
→253ユール09セッタ
エスター口座:14,538ユール50セッタ
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