080 いつも通り?
ウォーレン歴9年 陽春の月20日 昼
「みんな! 浄化された水が出たぞ!」
管理人さんが声を上げると、ため池のほうにいた人たちがわらわらとこっちにやってきた。
「おお! 本当だ!」
「すげえ!」
「あんなに【浄化】しても消えなかったのに……!」
口々にみんなが感動の声を上げる。私はこっそりアレンさんのほうに近寄った。
「アレンさん、これどういう仕組みなの?」
「溜めている水すべてを一度に浄化するのは大変ですがァ、流れ出てくる水をそのつど浄化するなら比較的少ない魔力でできるかと思いましてェ」
「ほうほう」
「さらにそこにエスターの大きな魔力が加わればァ、長い時間浄化し続けることができますよネェ」
「なるほど」
そんな話をしていると、管理人さんがこっちに駆け寄ってくる。
「本当にありがとうございました!」
「魔力を込めればいつでも使えますのでェ、エスターの魔力が切れたあとにも追加で魔力を込めればいいですしィ、また別のときにベインが流れ込んでも使えますからネェ」
「なんてこった! 感謝してもしきれません……!」
「いえいえェ」
アレンさんと管理人さんの会話をなんとなく誇らしく聞く。私はまあ、水門を触っただけなんだけど。
その場はそこで解散になって、あとでギルドから報酬が支払われることになる。
管理人さんが「おふたりのぶんは多めにしておきますからね」って言ってたけど、具体的にはどのくらいなんだろう。楽しみだな。
いったん宿に戻って休憩して、夜になったらふたりで食堂に向かう。夕飯を食べながら、アレンさんがしみじみと呟いた。
「いやァ、お役に立ててよかったですネェ」
「うん……そうだね」
昼間は興奮してて忘れてたけど、魔術道具を使う今の旅が、王都に着いてお医者さんに会ったら終わってしまうのは変わっていないのだ。
裏を返せば、それまでは今まで通り魔術道具を使って依頼をこなしていくわけだけど……。
「エスターに出会う前だったらあんな大がかりな魔術道具は思いつきもしなかったでしょうしィ、感謝してるんですヨォ」
「え……」
アレンさんの表情は相変わらず長い前髪で隠されてしまっている。でも、この間の淡々としていたアレンさんよりは、なんとなく柔らかい雰囲気だ。
今なら、違う答えが聞けるかも……?
「アレンさんは、その、私が詠唱魔法を使えるようになって魔術道具がいらなくなってもいいの?」
「最初からそのために組んだコンビですしネェ。喜ばしいことですゥ」
「……それは、そうだね」
「それにィ、本当に王都まできちんとたどり着けるかどうかとかァ、お医者さんが見つかるかどうかとかァ、わからないことも多いのですからァ、心配するだけ損ですヨォ」
……釘を刺されてしまった。私はやっぱりなんとなくしゅんとしながら、夕飯の続きを食べるのだった。
翌朝。私とアレンさんは朝食のあとクィドの町の冒険者ギルドに向かった。昨日のため池の依頼の報酬がどうなったか確認するためだ。
「おはようございます、ケミスの町から来たエスターです」
「同じく、アレンですゥ」
「ああ、昨日大活躍されたって話題の! 報酬の照会ですよね、少々お待ちください」
なんだかよくわからないけど、私たちはクィドの町ですっかり有名人になってしまったらしい。受付のお姉さんが名乗っただけで金額照会の手続きを始めてくれた。
「おふたりにはコンビで500ユール、手数料引いて475ユール入ってますね。おひとりあたり237ユール50セッタです」
「そんなに?」
「まァ、水門を改造しちゃいましたからネェ」
「あ、それもそうか」
受付のお姉さんがにこにこ笑う。
「毎年春には魔物の襲撃とベインで大騒ぎになっているんです。あれですごく助かりますよ」
「よかったですゥ」
なんていうかこう、あまりにも、いつも通りだ。
アレンさんが魔術道具を作って、私が使って、それでみんなの役に立てる。
私が気にしすぎ、なのかなぁ……?
エスター財布:268ユール59セッタ
エスター口座:14,601ユール00セッタ
→14,838ユール50セッタ
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