072 気付いちゃった!
ウォーレン歴9年 陽春の月16日 深夜
魔物を数体倒したところで私たちの見張りの順番は終わりで、アレンさんが「警戒鈴」を片付けに行っている間に、私は次のパーティの人たちを起こしに行った。
「見張りの交代お願いしまーす」
「んー、もうそんな時間か」
「ふわ……はーい」
私とアレンさんとは対照的な、お姉さんとそれより年下そうな男の人のコンビ。それぞれのそのそと起き上がると、体を伸ばしたりし始めた。
「あなた、エスターちゃんだっけ?」
「あ、はい」
お姉さんに話しかけられて、私はこくりと頷く。
「夕飯のときちらっと見てたけど、あなたたちずいぶん不思議な魔法を使うのね。ひとつも詠唱が聞こえなかったわ」
「ああ、あれは魔術道具っていうんです」
私のこういうときの説明もかなり板についてきた気がする。詠唱の代わりに動作をすることで魔法を発動させるんだという話をしたら、お姉さんは不思議そうな顔でそれを聞いていた。
「でも、いちいち決まった動作をしないといけないなんて面倒じゃない? 詠唱のほうが楽でしょう」
「それはその、私、詠唱が使えないので」
「あら、失礼」
「いえ、今ちょうど王都のお医者さんに診てもらおうと王都に向かっているところなんです」
「なるほどね。治療できるといいわね?」
「はい、ありがとうございます」
じゃ、とふたりは「警戒鈴」を集め終わったアレンさんとすれ違いで見張りの位置に向かった。
私はアレンさんがこっちに戻ってくるのを待ってから、寝袋に入った。なんとなく、さっきの会話を思い返す。
「……!」
あー! と叫びそうになったのを全力で口を手で覆ってこらえられたのは奇跡に近い。私はここ最近のなんとなくもやもやしていたものの正体をつかんでしまって、頭が混乱していた。
――詠唱魔法が使えるようになったら、魔術道具は必要ない。
アレンさんと出会うまでろくに魔法が使えなかったのは、みんな詠唱魔法しか私に教えてくれなかったからで。
アレンさんと出会ってから魔法が使えるようになったのは、「詠唱魔法の代わりに」魔術道具を使うようになったからだ。
「
そんなことが頭をぐるぐるしている間にも、男の人が詠唱を唱えたのが聞こえる。私たちが「警戒鈴」を置いてまわったのも、【魔力探知】の詠唱を唱えてしまえばあっという間に解決だ。
『いちいち決まった動作をしないといけないなんて面倒じゃない? 詠唱のほうが楽でしょう』
さっきのお姉さんの言った言葉はその通りだ。魔物撃退コンテストでも、発動の時差でどうしても遅れをとる場面がいくつもあった。
私は詠唱魔法が全く使えない体質で、アレンさんは詠唱魔法があまり使えない体質だからこそ、私たちの間では魔術道具は役に立ってるけど、私が詠唱魔法を使えるようになってしまったら、その均衡は壊れてしまう。
この街道を越えたら、王都のあるレジューム地方。どんどん王都に、お医者さんに、近付いてるけど、じゃあそのあとは?
私が詠唱魔法を使えるようになったとしたら、その先はどうなっちゃうの……?
正体がつかめたぶん、逆に考えることが膨れ上がる。眠気なんてどこかへ飛んでいってしまって、私はやけにきれいな星空を見上げながらもんもんと夜をすごすことになった。
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