071 「警戒鈴」
ウォーレン歴9年 陽春の月16日 深夜
「エスター、見張りの順番ですヨォ」
アレンさんに控えめに体を揺すられて、私はぼんやり目を覚ました。あー、そうだ。見張りがあるんだった。
「ふわぁ……はーい」
「眠そうですネェ、大丈夫ですかァ?」
「うーん、そのうち起きるよ」
私はとりあえずのそのそと起き上がって寝袋から出る。まだ寒い春の夜の空気で、ちょっとだけ目が冴えた。
ごしごしとぼやける目をこすっていると、アレンさんが木箱から小さなカゴのようなものを取り出した。中には小さな銀色の……鈴?
「それが今晩使う魔術道具?」
「おォ、察しが早いですネェ。そうですヨォ」
アレンさんのところに行くと、アレンさんはカゴをそのまま私に手渡してくる。とりあえず受け取って、中身をしげしげと眺める。やっぱり鈴だ。
「鈴の魔術道具?」
でも、ゆさゆさ揺すっても、いっこうに音が鳴る気配がない。鈴じゃないんだろうか。
「そうですヨォ。魔力がこもった状態で特定の条件を満たさない限り鳴らない仕組みになっているのデス」
「ほほう……?」
「使ってみればわかりますヨォ。……そろそろよさそうですネェ」
アレンさんに言われて手元を見ると、魔術道具が発動するときによく見るぼやっとした光が鈴にともっていた。
ためしにカゴを揺すってみる。……まだ鳴らない。
「これをどうするの?」
「この野営地をぐるっと囲むように置いていきますヨォ、ささァ」
「はーい……?」
よくわからないなりに、円形をしている野営地の周りに、一定間隔を保ちながら鈴を置いていく。ぽわぽわ光っている点が野営地をぐるっと囲んで、なんとなく可愛い。
「で、どうなるの?」
「あれは『警戒鈴』とでも呼びましょうかネェ、魔物の気配を察知して音が鳴るようになっているのデス」
「あ、なるほど! 暗くて見えないもんね!」
「その通りィ」
とかなんとか言っていたら、さっそく左斜め後ろからりん、と鈴の音。私は「火打石」を用意してその方向に走った。
がさっと飛び出してきた魔物が焚き火の明かりでぼんやり見えると同時、火力強めの「火打石」をこすると、大きい火の玉が魔物に命中して灰に変える。
「お見事ォ」
「えへへ」
さっき鳴ったらしい鈴は光が消えていて、拾い上げて手で包むとすぐに光を取り戻した。ふむふむ、だんだん仕様がわかってきたぞ。
それはもとの位置に置いて、私とアレンさんは野営地の真ん中の焚き火のところに戻る。
「けっこう頻繁に魔物が出るの?」
「この人数で見張りを交代していけばァ、数回遭遇して多いほうでしょうネェ」
「じゃあ意外と暇なんだ」
「ですネェ」
私とアレンさんは顔を見合わせて、そろって空を見上げる。
「……星がきれいだね」
「ちょうど天気がよくなりましたネェ、よく見えますゥ」
ぼけっと星を眺めていると、りん、と鈴の音。ええい、落ち着けないなあ!
また「火打石」で魔物を灰にして、ふう、と一息つくと、アレンさんが小さく拍手をしてくれた。
嬉しそうに口角が上がってゆらゆら左右に揺れているアレンさんを見ると、なんとなく胸のあたりがさわさわする。
……魔物撃退コンテストからこのかた、なんだかモヤモヤするというか、大事なことを忘れているというか、とにかく変な感じがするのだ。
うーん、なんだっけなあ……?
「エスター?」
「……ううん、なんでもない。意外と寒いね、焚き火にあたろうよ!」
でもその感じもあっという間にどこかへ行ってしまって、私はまたアレンさんのいる焚き火のほうへ駆け寄ったのだった。
エスター財布:378ユール09セッタ
エスター口座:14,606ユール00セッタ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます