070 旅人の一団
ウォーレン歴9年 陽春の月16日 朝
そして、いよいよ出発の日。私とアレンさんは宿のお会計と朝食とお財布の補充を済ませてロジの町の南門へ向かった。開門時刻に備えて、そこそこの人数の旅人らしき人たちが集まってきている。
私たちと同じ徒歩の人から、馬に乗っている人、それから馬車をひいている人たち。
開門と同時にそれぞれの速度で進むのかと思いきや、みんな一番遅い隊商らしき馬車にぴったりくっつくように移動し始めた。アレンさんもその速度に合わせているので、自然と私もそうなる。
「なんか固まって動いてるみたいだけど、なにか意味があるの?」
「最終的に同じ野営地で協力して見張りを交代でやることになりますしィ、こうやって固まって動いておけば魔物が出ても連携しやすいというのもありますネェ」
「ふーん……」
それから、たしかに連携が必要そうな魔物がひょいと飛び出してきたのをなんとかして倒したり、なんだかんだあって、あっという間に空が黄色っぽく染まり始めた。
「なんか気を張りっぱなしって感じ……」
「まァこれでも食べて気を休めまショウ」
「あ、昨日の」
アレンさんとふたりで、歩きながら干した果物を食べる。たしかにちょっと、気が休まるかも。
そうこうしているうちに、誰かが「野営地が見えたぞ!」と声を上げた。目を凝らすと、遠くの方に草を刈って作ったような広場みたいなものが見える。
「うわあ、本当に野宿だ」
「そうなんですよネェ」
いざ野営地に着くと、それぞれ適当な場所にテントや寝袋で寝床を陣取っていく。私はアレンさんが準備しておいてくれた寝袋を空いている場所に敷いた。
それから、旅慣れたふうのパーティリーダーのおじさんが中心になって、野営地の真ん中に大きめの焚き火を焚いたり、見張りの順番を決めたりする。
私は野営って大変なんだなあ、と思いながら、見張りの順番が前後の人たちに挨拶をしにいったりして、だんだん夜に近付いていった。
「じゃあそろそろ夕飯にしまショウ」
「そうだね、なんだかおなかぺこぺこ」
「気疲れしたでショウ。たくさん食べてくださいネェ」
アレンさんは調理用の魔術道具を木箱からあれこれ出してくる。お湯が沸くポットと鍋敷きのセット、スープが作れる鍋、パンをかりっと焼ける金属の箱。
……まあ、アレンさんというよりは、魔力がたくさんある私が主に使うんだけど。
でもアレンさんが材料を入れて、私が触ったり混ぜたりするだけで勝手に料理ができちゃうんだから、なんだか面白いものだ。
周りの人たちはもちろん詠唱魔法で調理をしている。【着火】から【撹拌】、【沸騰】とか、本当にいろいろ。
ぽけっとそういうのを眺めていたら、アレンさんが小首を傾げた。
「エスター? 冷めちゃいますヨォ?」
「あ、そうだね」
私は慌てて食事に戻る。焼きたてのパン、ほかほかの干し肉と山菜のスープ、干した果物のデザート。
外でしっかりしたごはんを食べるのは慣れない感じがそわそわするけど、でもあったかいものを食べるとちょっとほっとする。
片付けはざっくり済ませて、本格的に洗うのは次の町でやるらしい。ふむふむ、野宿ならではだ。
夜中に起きないといけないしとっとと寝ちゃおうか、という話になって、私とアレンさんは早々に寝袋にもぐりこんだ。
薄曇りの夜空に、視界の端には燃え続けている焚き火。寝袋は柔らかいけど、やっぱり硬い地面。
慣れないことばっかりだなあ、とか、なんだかいろいろ考えているうちに、眠気が私を覆いつくしていった。
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