069 買い出し

ウォーレン歴9年 陽春の月15日 朝




 魔物撃退コンテストが終わった翌日のロジの町は、まだなんだか少しそわそわしたような賑やかさだ。


 早々に旅に出ちゃう人は昨日のうちに出発したらしかったけど、ほとんどの人はもう一泊してから動き出すみたい。


 そんな人たちと一緒に一泊した私とアレンさんは、食堂で朝食を食べながらこのあとのことを相談していた。


 葉物サンドイッチをもしゃもしゃ食べているアレンさんは、隣に「現在地図」を広げて私にわかるように指さす。


「ロジの町を出るとこのニーグィ地方から出る道になるのですがァ、次の町が遠くて野宿を挟むことになりますゥ」


 アレンさんがなぞった道は、たしかに今まで通ってきた道よりも倍くらいの長さがある。


「野宿? 前の山みたいにロッジがあるとかじゃなくて?」


「そうなんですゥ。いかんせんそのあたりは夜に活発な魔物が多くてですネェ、ロッジを安全に建てられる感じではないのですヨォ」


「へええ……」


 街道が通っているのは基本的に魔物が少ないところだと思ってたから、なんだか意外。でもまあ、そこまで都合よく魔物も縄張りを張ってくれるわけじゃないよね。


「ですのでェ、簡単な保存食などを持っていきましてェ、旅人で集団になって野営するのですゥ」


「ちょっと面白そうかも」


「見張り交代がありますからァ、夜はちょっと寝にくいですけどネェ」


「ふむふむ。……じゃあ今日はその保存食を買いにいくの?」


「そうなりますネェ」


「了解です」


「フフフ」


 そうこうしているうちにお互い朝食を食べ終わって、トレイを返却口に返す。食堂から出て、早速ロジの町の商店街に向かった。


「お会計がややこしくなりますからァ、とりあえず私のお財布から買ってお宿で折半しまショウ」


「はーい、よろしくお願いします」


「おまかせあれェ」


 まずは下調べで商店街の店をざっと見て回る。お店の人たちも次の街道に野営が必要なのがわかっているわけで、保存食を売っているお店が多い。


 町の特色が出るなあ、なんてのんびり考えている私とは裏腹に、アレンさんはぶつぶつ値段についての分析らしきひとりごとを呟いている。


 ……頼もしいけど、ちょっと怪しげに見えなくもない。


 とりあえず商店街をぐるりと一周して、私とアレンさんはそのへんにあったベンチで休憩する。


「よさそうなお店、あった?」


「いくつかお安く済みそうなところがありましたのでェ、そこでそろえまショウ」


「はーい」


 というわけで、次は目当てのお店に向かっていく。


 手始めにパン屋さん。次に干し肉屋さん。それから乾燥させた山菜を売っているお店。


 さくさくと、時折値引き交渉をしながら買い物をしていくアレンさんはめちゃめちゃ頼もしい。


 パンと干し肉と山菜があったら、お湯は魔術道具で沸かせるし、それなりにおいしい晩ごはんになりそうだ。


 そんなことを考えていたら、アレンさんがとある出店を示した。


「せっかくですからァ、ここでもお買い物をしまショウ」


「……果物屋さん?」


 たしかに食後のデザートまであったら完璧だけど、さすがに野営でそれは贅沢な気もする。


 アレンさんがなにを買うつもりなのかと興味津々に見ていたら、やっぱり干した果物だった。保存食を買うのが今回の目的だもんね。うんうん。


「これで全部ですかネェ」


「けっこう買ったね」


「最後のはおまけですヨォ。少し食べてみますかァ?」


「へ?」


 まさか今食べることになるなんて。でもちょっと……気になるかも。


「いいの?」


「そのために少し多めに買いましたからァ」


「じゃあ……もらおうかな」


「ハイ、どうぞォ」


 受け取ったのは原型がわからない橙色の干した果物。ちょっとかじってみると、じゅわっと甘酸っぱさが口の中に広がった。


「おいしい……!」


「歩きながらのおやつにもできますからネェ、お楽しみにィ」


「やったー!」


 初めての野宿で緊張してたけど、こういう楽しみがあると、なんだかワクワクしてきちゃうかも。


 出発は明日。私とアレンさんは買ったものを整理するために、少し早めに宿に戻ることにした。




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