067 「感電餌」

ウォーレン歴9年 陽春の月14日 昼




 魔物撃退コンテストも中盤になってきた。私とアレンさんはあらかじめ作戦を相談しておいた沼地にだいぶ近付いている。


 他のいくつかのパーティも私たちの近くでそろりそろりと森の中を進んでいる。時々飛び出してくる魔物はもうなんか早い者勝ちでやっつけるみたいな感じだ。


「思ってたよりみんな手ごわいね」


「そうですネェ。作戦がうまくいくといいのですがァ」


 私とアレンさんはそんなことを話しながら沼地の近くまで到着する。他のパーティと同じように、魔物の的にならないようにそこらへんの茂みに隠れた。


 それでも人、もとい獲物の気配を察知したのか、沼地からぼこぼこと魔物が頭を出した。一番数が多いのは、人の頭ひとつぶんくらいの大きさの羽虫の形をした【水蠅】ウォーターバグだ。


【茨グラディウム剣】・スピニス!」


【雷イントゥヌイ撃】ット・イクト!」


 あちこちの茂みから詠唱魔法が放たれて、ウォーターバグは一匹ずつその数を減らしていく。でも、まだまだたくさん沼から湧いてくる様子で、どんどん群れの厚みが増してきた。


「……よし、アレンさん、やろう」


「うむゥ、やりまショウ」


 私はさっきまで手に持っていた「投種器」をアレンさんに返して、今回のために作ったという新しい魔術道具を受け取った。


 新しい魔術道具は、フタつきの小さな壺。ぎゅっと両手に握り込んで少しすると、ぼうっと光る。


「アレンさん、これ」


「えェ、もういけますヨォ」


「よーし!」


 私は壺のフタを開けながら立ち上がった。フタをアレンさんに預けると、壺の中身を思いっきりウォーターバグの方へぶちまける。


 ぱらぱらと飛び散ったのは――。


「パン粉?」


 誰かがぼそっと呟いたのが聞こえたけど、私はそれどころじゃない。魔術道具の効果はちゃんとあるか……?


 ウォーターバグたちはパン粉の香りに釣られたようにぶんぶんと地面に近寄る。小さな口がパン粉をぺろりと舐めとった。


 次の瞬間。


 バチバチバチ! と十数匹のウォーターバグたちが一気に電撃に包まれた。私とアレンさんは思わずぐっとこぶしを握り込む。


「成功だねアレンさん!」


「やりましたネェ」


『おーっと71番のコンビが撒いた……パン粉? にはなにか仕掛けがあったようだー!? 一気に大量のウォーターバグが撃墜されました!』


 実況の声が届いたので、私とアレンさんは顔を見合わせてから「映像球」を覗き込んだ。


「今のは魔術道具の『感電餌』ですヨォ」


「電撃の魔法が仕込んであったんです!」


 おお、とか、へえ、とか茂みから感嘆の声が聞こえてくる。私たちは照れくさくなって一旦茂みに引っ込んだ。


「俺たちも負けてられねえぜ!」


 誰かがそう言って詠唱をどんどん唱え始めたので、私とアレンさんも急いで壺にパン粉を補充する。私が両手で壺を握り込んで、光ったらばらまいて。


 面白いくらいに、ウォーターバグは私たちの「感電餌」に引っかかってくれる。今もまた一気に十数匹やっつけた。


「よーし! この調子!」


「いいですネェエスター、どんどん倒しまショウ!」


 こんな感じで、私とアレンさんはせっせと「感電餌」で魔物撃退数を稼いでいったのであった。


 なんだかんだで、気付けばそろそろ夕方。終了時刻も近いかも……?




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