065 ロジの町の春

ウォーレン歴9年 陽春の月10日 夕方




 9日は大雨が降ったので出発を1日遅らせて、私とアレンさんは10日の今日、イスの町の次の町、ロジの町に到着した。


 身分証を見せて門をくぐるのにも慣れてきた。でもなんだか、門をくぐった先の様子がちょっと変だ。旅人たちがみんな、門から出たすぐそこで足を止めている。


「なんだろう?」


「なにかあったのでしょうかネェ……」


 アレンさんと顔を見合わせてそんな話をしていたら、ギルドの制服を来たお兄さんがにこにこしながら近寄ってきた。


「失礼ですが、お二方は冒険者の方ですか?」


「え、あ、はい」


 私の返事に、そうですか! とお兄さんはさらに嬉しそうな顔をする。


「実はですね、ここロジの町では春に冒険者さん向けにこんなコンテストを開催しているのですよ」


 お兄さんが手に持っていたチラシを私とアレンさんにそれぞれ渡す。そこにはでかでかと、「賞金5,000ユール山分け! 魔物撃退コンテスト!」と書いてあった。


「魔物撃退コンテスト?」


 私が思わずおうむ返しに文字を読み上げると、お兄さんはええそうなんですよ、と頷いた。


「この町の近くには魔物が多く湧く森があるんです。魔物にも生態系があるので根絶はさせないのですが、大量駆除していただかないと作物に被害が出る程度にはたくさん湧くので、毎年こうやってコンテストを開いているわけなんですね」


 立て板に水というか、お兄さんはものすごい勢いでコンテストの経緯を説明してくれる。


 たしかにケミスの町の近くにも魔物の湧く森があって、定期的に駆除依頼が出ていたっけ。クラウドさんの護衛のときもまあまあ魔物が出てきてたし。あれの比じゃないくらい魔物が出るんだったら、たしかに大勢で一気に狩ったほうがいいのかもしれない。


「ちなみにィ、最高賞金はおいくらですゥ?」


 あ、アレンさんが食いついた。お兄さんはにっこり笑う。


「最高賞金は1,000ユール、一番魔物の討伐数が多かったパーティに与えられます。お二人でパーティでしたらおひとりあたり500ユールですよ! どうでしょう、参加してみませんか?」


 私はアレンさんと顔を見合わせる。魔物を退治する系の依頼は沢山こなしてきたし、その中で他のパーティと連携して動くこともあった。


 でも、こんな感じで競い合ったことは、今まで一度もない。……正直、すごく面白そう。


「面白そうじゃない?」


「私もそう思いますゥ」


「では、ご参加で?」


 私たちの会話を聞き逃さず、お兄さんがずい、とさらに近付いてくる。私たちはそろって頷いた。


「参加、します!」




 その日は手続きだけですっかり日が暮れてしまって、宿に泊まって起きた陽春の月11日の朝から私たちはコンテストに向けて行動開始した。


 宿も食堂も、それからこのあたりの魔物の生態系を調べようと思って入った図書館も、いかにも冒険者といった風情の人たちでごったがえしている。


 ぱっと目につくような本はどれももう誰かが取っていってしまっていて、でもアレンさんは他の人が見落としそうな、難しそうな地形図をさらっと書庫から借りてきて図書館の机に広げる。


 ……地図なのと、その上にいろいろ記号が描いてあるのはわかるんだけど、さっぱり読めない。


 ぽかんとしていると、アレンさんが小声でこの地形図の解説をしてくれた。


「まずはこの線は標高や地形を表していましてェ、点々と描いてある図形はどんな属性の魔物が出るのかというのを表示してあるのデス」


「ふむふむ」


「昨日の方は『森』とおっしゃっていましたからァ、きっとこのあたりがコンテスト会場でしょうネェ」


 アレンさんがぐるりと指で示したあたりには、3種類の記号が描いてある。うーん、植物と土と、あと水……かな?


 アレンさんに確認すると、そうですネェ、と返ってきた。


「この地図の様子から考えるに、森の中に大きな沼でもあるのでショウ。そこから水属性の魔物が湧くのですネェ」


「ほー……」


 アレンさんは自分の筆記具にさらさらとなにかを書きつけて、地図を片付けてしまう。


「もう片付けちゃうの?」


「調べることも、戦闘訓練も、時間は有限ですからネェ。次は出てくる魔物の種類が載った資料を探して来ますゥ」


「はーい」


 席をとっておかないと埋まっちゃうから、私はすっかり待ちぼうけだ。アレンさんって、こういう頭を使う感じのことになると急に頼もしいよなぁ……。さすが高等学校に通っていただけあるということなんだろうか。


 でも実際に戦うのは私だ。うん、特訓、頑張ろう。私は私ができることをやらないとね!




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