063 「魔力回路」
ウォーレン歴9年 陽春の月8日 日中
地図を持っているメグさんの後ろを歩きながら小石を拾っていると、メグさんの横を歩いていたペギーさんがひょいと私のほうを振り返った。
「なにしてんの、小石なんて拾って」
「あ、魔法を使うのに使うんです」
「どういうこと?」
私の横からアレンさんがにゅっと顔を出す。
「エスターが魔法に使うのは私が作った魔術道具という専用の道具でしてェ」
「へえ?」
「今日は『投種器』という小石を飛ばして魔法に変える道具を使う予定なのでショウ」
アレンさんが私のほうを向いたので、私は不思議そうな顔をしているペギーさんにこくこくと頷いてみせた。
「そうなんです。その場で拾ってもいいんですけど、探すのに時間取られちゃうので、『投種器』を使うことがわかってるときは先にこうやって拾っておくんです」
「ふうん、よくわかんないけど変なことやってんのね」
「あはは……」
そんな会話をしているうちに、問題の畑に着く。依頼主さんが指さしたところには、大きく土が盛り上がって地面近くに3ヶ所穴が開いている、マッドワームの巣があった。
見ているうちにも、何体か頭を出したり引っ込めたりしている。昼間だからそんなに出てこないけど、暗くなると作物をかじりに出てきたりするらしい。
作戦を決めたりそれぞれ担当する巣穴を決めたところで、それまで黙ってついてきていたクリスさんが私に近付いてきた。
「魔力の流れを見るための魔法をひとつかけさせてもらいますね」
「あ、はい」
クリスさんがひとつ詠唱を唱える。なにかが変わった気はしないけど、これでクリスさんに私の魔力の流れ? が見えるようになったらしい。
「エスターちゃん、やるわよー」
「あ、はい!」
畑の外側で待機するクリスさんとアレンさんにひらりと手を振って、私はペギーさんとメグさんのほうに駆け寄った。
さて、これからマッドワームの駆除だ。
ペギーさんは短剣使い、メグさんは魔法士だ。今回は最初にメグさんの【煙幕】を巣の中に投げ込んで、出口から逃げ出してきたマッドワームを一匹ずつ倒していく作戦。
それぞれの配置は、風上がメグさん、中央が私、風下がペギーさんだ。
あ、そういえば。
「たぶんこれがあったら便利だと思うんですよ」
私は「魔力探知球」を手のひらの上に置いて発動させて、巣の上に置いた。茶色い光の点が数十個はともっている。
「この光の点は?」
首を傾げたメグさんに、私は巣を指さす。
「巣の中のマッドワームの魔力反応です」
「へえ、便利ね。これなら残さずに駆除できそう」
おっとり笑ったメグさんを見てか、ペギーさんの雰囲気も少し柔らかくなる。
「で、エスターちゃんの準備は整った?」
「あ、はい」
私は集めておいた小石の入った袋を腰に下げて、「投種器」を取り出した。小石のひとつ目も手に持っておく。
「じゃ、メグお願い」
「了解」
メグさんが両手を広げて巣穴に向かって突き出す。
「
ぼん! と巣の中に【煙幕】が広がって、黒い煙が私の足元まで吹き出してきた。
キィィ、と煙でいぶされたマッドワームの悲鳴が聞こえてくる。よし、これはうまくいきそう。
ぬる、と這い出してきた1匹目が足元に見えて、私はすぐに小石を「投種器」につがえた。
「それ!」
狙いを定めて小石を打つと、マッドワームの魔力を吸い取る【寄生樹】が生える。片腕くらいの長さしかなかったマッドワームはすぐにしおしおになって塵になった。
「へえ、面白いじゃん。……っしょ、っと」
私の魔法を見たペギーさんが短剣でマッドワームを切り裂きながら笑った。
そこからはとにかく逃げ出してくるマッドワームとのおいかけっこみたいになった。
途中で巣から出てくる勢いが弱まったときはまたメグさんが【煙幕】を巣の中に放って、出てくるマッドワームをとにかく倒して、その繰り返しで、なんだかんだ夕方まで駆除に時間がかかった。
「ラスト1匹!」
「はい!」
最後、私の担当の巣穴から出てきたマッドワームに「投種器」で小石を放つ。マッドワームが魔力をなくして塵になったのを見守って、3人で大きく息を吐いた。
もうマッドワームの反応がないのを確認して、私は「魔力探知球」を片付ける。ペギーさんとメグさんがそれぞれ私のほうに歩いてきた。
「お疲れ」
「面白い魔法使うのね」
それぞれペギーさんには肩をぽんと叩かれ、メグさんには頭を撫でられて、年上のお姉さんとあんまり関わったことのない私は目を白黒させるしかない。
「あ、ありがとうございます……?」
「なんで疑問形なのよ。あんた、普通に頑張ったじゃない」
「そうそう。さ、戻りましょう」
依頼主さんに駆除が終わった報告をして、私たちは畑から出る。アレンさんがひらひらと私に手を振ってくれた。
「お疲れ様でしたァ」
「ありがとう、アレンさん」
アレンさんの隣にいたクリスさんはなんだか難しそうな顔をしている。ペギーさんたちが先に帰り道を歩き始めても、動こうとしない。
「あのー、クリスさん?」
「……ああ、失礼」
私の声でハッとしたように顔を上げたクリスさんは、とりあえずそれだけ言って歩き始める。私はアレンさんと顔を見合わせて、小首を傾げた。
道の半分くらいまで歩いたところで、クリスさんはふと口を開く。
「エスターさん」
「あ、はい」
「あなたの『詠唱魔法が使えない』という症状は、『魔力回路』に不調があるのかもしれません」
「……『魔力回路』?」
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