062 マッドワーム駆除依頼

ウォーレン歴9年 陽春の月8日 日中




 診察室から出た私とクリスさんはアレンさんに事情を説明して、診療所は休診にして3人でイスの町のギルドに向かうことになった。


 今からでもできそうな依頼を探して、クリスさんに魔術道具を使っているところを見せて、また診療所に帰ってくる計画だ。


 クリスさんに案内されて掲示板広場に行くと、ふたりパーティらしき女性2人組がぽつんととある貼り紙の前で相談をしているのが目に入った。


「単純な魔物駆除で400ユールはでかいと思うわけよ」


「そうねえ」


「でも3人以上って制限があるわけじゃない?」


「そうねえ」


「ほかのパーティ誘うにも人数が多ければ取り分は減るし」


「そうねえ」


 かりかりしたお姉さんと、おっとりしたお姉さん、といった感じ。とまあなんとはなしにふたりのほうを見ていたら、かりかりしたほうのお姉さんとばっちり目が合ってしまった。


「なあに、そこのお嬢ちゃん。あたしたちになんか用?」


「いや、特にそういうわけじゃ」


 私は気圧されて首を横に振ったけど、クリスさんがひょいと前に出た。


「今、3人以上のパーティじゃないと依頼に行けない、という話をされてなかったかな?」


 クリスさんを見て、おっとりしたほうのお姉さんがきょとんとした顔をする。


「診療所の先生じゃない。ギルドにご用事?」


「いや、ただの付き添いだよ。ちょっといろいろあって、こっちの彼女が魔法を使うところを見たくてね。よければこのふたりを混ぜてやってくれないかな?」


 お姉さんたちは顔を見合わせて、私たちのほうに歩いてきた。かりかりしたほうのお姉さんが私の顔を覗き込む。


「見ない顔だけど。旅人?」


「そんな感じです。私はエスターで、こっちがアレンさん」


 お姉さんはアレンさんに視線を移す。いぶかしげに目を細めた。


「戦闘員ふたり?」


 アレンさんの魔力が少ないのが見えていての発言だろう。慣れっこなのか、アレンさんは特に気にしたふうはない。


「私は後方支援といいますかァ、事前準備係といったところでしょうかァ。主に戦うのはエスターだけですネェ」


「ふうん、それでも2人組扱いってことは報酬は4人で等分ってこと?」


「はいィ」


 お姉さんは腕を組む。おっとりしたほうのお姉さんを振り返った。


「どうする、メグ」


「いいんじゃないかしら。戦闘員3人は満たすわけだし、むやみに大所帯になるわけでもなし」


「それもそうね」


 お姉さんはこっちに顔を戻す。握手を求めて手を差し出してきた。


「遅くなったけど、あたしはペギー、こっちはマーガレット」


「長いからメグでいいわよ」


「先生の提案、そっちがよければ受けたいと思うんだけど」


 私はアレンさんの顔を見る。こくりと頷いてくれたので、私はペギーさんの手を取った。


「じゃあ、よろしくお願いします」


 ぎゅっと力強く握手をされた後、早速問題の依頼の貼り紙のところに私たちは移動した。


『畑のマッドワーム駆除依頼 ※3人以上:400ユール』


 依頼の紙を見て、うわ、マッドワームかぁ、とうっかり思ったのは内緒だ。去年シェリーが苦戦したような規格外のマッドワームではないと思うけど。


「じゃああたしが代表で受けるけど、いい?」


「はい」


 貼り紙をはがして、ギルドの受付にみんなで向かう。ペギーさんがかくかくしかじか事情を説明して、無事依頼を受けられることになった。


 受付のお姉さんが依頼情報を読み上げる。


「こちらの依頼は畑に迷い込んだマッドワームが巣を作ってしまったので駆除してほしいという依頼です。巣の出口が3ヶ所あるそうなので3人以上の制限がついているようですね。一匹一匹は大したことがないものの、数が多いので残さないように気をつけてほしいとのことです」


 ペギーさんが私たちを振り返る。私たちがこくこくと頷くと、また受付のほうに顔を戻した。


「了解しました」


 ペギーさんが代表して答えて、地図を受け取った。さあ、これから依頼だ。


 うーん、と私は戦闘法を考える。まあ、マッドワーム相手だったら無難に「投種器」で小石を飛ばしていけば大丈夫かな。


 クリスさんが、私が魔術道具を使うところを見てなにを調べるのかも、地味に気になる。


 いろいろなことが頭をぐるぐるしつつ、私はペギーさんとメグさんの後ろをついてマッドワームの巣のある現場に向かうのだった。




エスター財布:410ユール00セッタ

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