057 満開の春の山
ウォーレン歴9年 陽春の月6日 朝
宿代を払って宿を出て、朝ごはんを食べて、私たちは町を出る前にヴィオの町のギルドの建物に向かっていた。
「これで安いほうっていうのがドキドキしちゃうなあ……」
「地方の宿ですからネェ」
そう、宿代でごっそり減ったお財布の中身を補充するためだ。
ギルドの建物も教会と一緒でどこの町も同じつくりのようで、すぐに見つけられた。中に入っても雰囲気が同じだ。
「ケミスの町から来たエスターです」
「同じくアレンですゥ」
口座管理の窓口で、ケミス町のギルドでもらった身分証を見せる。受付のお姉さんがたぶん魔術道具であろう虫眼鏡で私たちの身分証を見始めた。
「アレンさん、これも魔術道具?」
「そうですネェ、鑑定系の魔術道具でショウ」
「やっぱり」
そんな話をひそひそしていると、確認が終わったのか、お姉さんが顔を上げる。
「ご本人の確認が取れました。いかがなさいますか?」
それからふたりでそれぞれお金を下ろして、私たちはヴィオの町を出ることにした。
門をくぐると、すぐ向こうにちょっとした山が見える。山に続く道も上り坂だ。
「アレンさん、この山……登るの?」
「登りますヨォ。さっきお金を多めに下ろしてくださいと言ったのは頂上で泊まるからですネェ」
「うっわぁ……本格的に旅って感じ」
「エスターの旅にもっているイメージが気になるところですネェ」
小さく笑ったアレンさんがそう言って歩き出す。私もあとに続いた。
普通に歩いていって、まだ陽がそこまで昇りきらない頃に、登山口に着く。ちょっと早いけど、レリーフの彫ってある休憩所があった。
「登山かぁ……」
「まァなんとかなりますヨォ」
「そうだといいんだけど」
そんなことを話しながら休憩して、お祈りをして、いざ、山へ。
最初は足元がおぼつかなくてハラハラしながら歩いていたけど、そんな山道にも慣れてくると、周囲の景色が目に入ってくるようになる。
「あ、アレンさん、花が咲いてる!」
「春の山ですからネェ。探せばいくらでも咲いていますヨォ」
園芸好きとしてはやっぱりこの山にはどんな花が咲いているのか気になるところだ。上を見上げれば花をつけている木々も目に入った。
……意外と、登山、楽しいかも。
それからの私は、山に咲いている花を楽しみながら歩くことにした。
いちばんたくさん生えている、薄紅色の小さい花をびっしりつけている木はアサク。
時々アサクに紛れてもう少し色の濃いのが咲いているのはイズクラフ。
そんなことを指さしながらはしゃいでいたら、アレンさんが笑った。
「楽しそうですネェ」
「それはもうとっても!」
もちろん地面を見るのも忘れない。背が高めの、黄色い花を縦長に咲かせているのはアラノナ。
背の低い、白くて小さい花を丸く咲かせて群生しているのはリサム。
地面に這うように生えて、場所によって赤かったり青かったりする花を咲かせているのはバシィラ。
見つけるのが楽しくて、ついつい足が速まってしまう。アレンさんがエスター、と声をかけてきた。
「そんなにはしゃぐとォ、あとで疲れが来てしまいますヨォ」
「はーい。……でも、楽しいんだもん」
「見ていてわかりますけどネェ。ずいぶんお詳しいのでェ」
「えへへ」
うきうき気分で山を登り、山頂のロッジが見えたのが日暮れどき。たしかにちょっと、早足だったかもしれない。
「ここに泊まるの、アレンさん?」
「そうですヨォ。ここは狭いので私たちは同室になるかもしれませんネェ」
「けっこう人、いるみたいだもんね」
「そうですネェ」
向こう側からちょうど、旅芸人の一座っぽい人たちもやってきたのが見える。これはもしかしたら、にぎやかな夜になるかも。
エスター財布:195ユール00セッタ
→345ユール00セッタ
エスター口座:15,236ユール00セッタ
→15,086ユール00セッタ
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