056 音痴も愛嬌!
ウォーレン歴9年 陽春の月5日 日中
鳥の魔物を捕まえた私は、アレンさんと相談するために、鳥の魔物を連れて下に降りることにした。
「こっちおいでー」
言葉が通じるのかはさておき、そう声をかけてから足を下方向に踏み出す。おお、下りられる。
私が数段階下りたところで、鳥の魔物も飛び立って私と一緒にゆっくり下降を始めた。
……そして、ひなたちもぞろぞろついてくる。羽音がとんでもなくうるさいくらいだ。
「大所帯ですネェ」
のんびりそんなことを言うアレンさんの手前に着地すると、鳥の魔物たちもそろって着地する。
私はとりあえずひとつ息をついて、「捕獲縄」に首を捕まったままおとなしく地面に座り込んでいる鳥の魔物の親鳥を見やった。
「アレンさん、このあとどうする?」
「どうしましょうかァ。適当な音を覚えさせればいいわけですがァ」
「いつだったか吹いてた笛は? 魔物にしか聞こえないやつ」
「あれだとちゃんと覚えてくれたかどうか我々が判別できないのが問題なんですよネェ」
「あー……」
そうか、魔物にしか聞こえないから人間の私たちから聞こえないんだった。
私たちが困っているのもおかまいなしに、親鳥は小さくりんごんとさえずっている。
突然、アレンさんがアァ、と手を叩いた。
「エスターはよく鼻歌を歌うでショウ? あれのどれかを覚えてもらうのはどうでしょうかァ」
「え」
たしかにその、ちょっと機嫌がよかったりすると鼻歌が飛び出すことはあるけど、アレンさんの前で歌った自覚がない。
無意識……? なんかすっごい恥ずかしいんだけど。
アレンさんがつい固まってしまった私を見て小首をかしげた。
「エスター?」
「あ、えっと、うん、いいとオモイマス」
恥ずかしさのあまりカタコトになったのは見逃してほしい。
アレンさんは木箱の中から大きいガラス玉と小さいガラス玉のセットの魔術道具を取り出した。
「町の人に証拠として見てもらうために記録しておきましょうネェ」
この魔術道具は「映像球」といって、両方のガラス玉に魔力を込めてから、小さいガラス玉に見せたいものを映すと、映像と音が大きいガラス玉で1日間再生できるようになる魔術道具だ。
私はふたつのガラス玉を受け取る。少しして小さいガラス玉が浮き上がったので、大きいガラス玉をアレンさんに返す。
そして、小さいガラス玉を親鳥の魔物のほうに近づけた。これでいい、かな。
まずは鐘の音を覚えている証拠撮影からだ。
「鳴いてみて」
通じるかはさておき、そう声をかけてみる。すると意外と通じたのか、親鳥は大きく翼を広げて口を開けた。
りーん、ごーん!
立派な鐘の音が鳴る。ひな鳥がわらわらと親鳥の周りに集まった。
「じゃあエスター、鼻歌をどうぞォ」
「う、うん」
これ、証拠として見せるんだよね……なんか緊張する。私は息を吸い込んだ。
「ふふん~ふんふん~」
親鳥は黙って私の鼻歌を聞いている。少しして、りんごん、と鳴いた。
「覚えてくれない……」
「根気強く続けまショウ」
「はぁい」
アレンさんに励まされて、私は何度か同じ鼻歌を歌った。もう疲れてきたと思ったところで、親鳥が口を開ける。
ふふん~ふんふん~。
「あ!」
「覚えてくれましたネェ」
ためしに、もう一回鳴いてみて、と声をかけてみる。親鳥は同じように鳴いた。ひな鳥がぴょこぴょこ親鳥の周りを跳ね回った。
……私の声をそのまんま覚えてるから仕方ないんだけど、恥ずかしいな……。
ふとアレンさんのほうを見ると、アレンさんはなにやら笑いをこらえるように口元をひくひくさせていた。
「アレンさん?」
「エスターってェ……ちょこっと、音痴ですよネェ……」
私はかっと顔が熱くなるのを感じた。
「恥ずかしいから言わないでよアレンさん!」
「アッハッハ、すみません」
「反省の色がないー!」
私はぶんぶん腕を振り回す。とうとう耐えきれなくなったアレンさんが笑いだす。
そんな私たちを尻目に、親鳥は気に入った様子で私の鼻歌を繰り返していたのだった。
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