052 出発!
ウォーレン歴9年 陽春の月3日 朝
あっという間に日は過ぎて、私とアレンさんがケミスの町を出発する日がやってきた。
集合住宅の荷物は何日か前に実家に引き上げてしまって、私は備え付けの家具だけになっている部屋を見渡す。
「とうとう、かぁ……」
私はパジャマをリュックの中に押し込んで、たたんで置いてあった今日のぶんの服に着替える。鏡の前で金髪をひとつにくくった。
そして、旅支度の入ったリュックとウエストポーチ、それから魔術道具の入った腰の袋を身に着けて、最後にマントを羽織る。
お父さんからのお小遣いは、防具代わりのマントに変わっていた。
集合住宅から出ると、アレンさんもちょうど階段を下りてきたところだった。
「おやァ、マント、似合ってますネェ」
「ありがとう、アレンさん」
アレンさんは行商のときと変わらない服装と、大きな木箱。たぶんあの部屋にあった本とかが詰まっているはずだからすっごく重いんだろうな。
私たちは町の中をゆっくり歩く。アレンさんと出会ってからほぼ1年。いろんなことがあったなぁ。
最初に会ったときはお互い大惨事で、でもなんだかんだそれがきっかけでこうやってコンビが組めて。
いろんな依頼をこなして、お金が貯まって、仲もよくなって、それで、これから旅に出ようとしているわけだ。
そんなことを考えながらまだ目の覚めきらない商店街を抜けて、早速呼び込みのかかっている露店街を抜けて、王都への道が続く南門を出る。
「旅の始まりですネェ」
「うん、ドキドキする」
と、思わず門のすぐ外で立ち止まった私たちの頭に、聞き覚えのある声が響いた。
『やれやれ、間に合ったか』
私たちはきょろきょろと周囲を見回す。すると私たちの左、東の方向の茂みから、人の姿のモーラが顔を出した。
「モーラ!?」
『先日出発の日を言っておったからな。見送りに来た』
そういえば先週くらいにマンドラゴラの蜜を採りに行ったときにそんな話をしたっけ。
そのときに採った蜜は売らないでアレンさんの荷物の中に入っている。いざというときに使うためだ。
いざというときは、ないほうがいいけど。
モーラはてくてくと歩いてきて、私たちのすぐ横に立つ。
『王都への旅というのはどのくらいかかるのだ?』
モーラの言葉に、アレンさんがうーん、とうなった。
「王都へ着いてからお医者様を探さないといけませんしネェ……帰ってくるのは半年後とかでしょうかァ」
『半年といったら秋ではないか! そんなにかかるのだな』
「そうなりますね……」
モーラの言葉に、私は改めてこの旅の大変さを実感する。
アレンさんが事前に話していた話だと、王都に行くだけなら1ヶ月とかそのくらいで行けるらしいけど、問題はお医者さんが見つかるかどうかなのだ。
お医者さんってこう、知り合いづてで探したりとかしないといけないんだろうな。まだ王都に着いてもいないのに、そのへんも不安がある。
『われもついていってやりたいが、ここの森のヌシという責任があるからな』
モーラが残念そうに言うので、私はちょっと微笑ましくなってモーラの頭を撫でた。
「町のみんなをよろしくお願いします」
『子供扱いするでない、が、任されてやってもよい』
「ふふふ」
照れた様子のモーラに思わず笑いがこぼれる。アレンさんも口角が上がっている。
なんだかほっこりした。そうだよね、不安がっていてもしかたない。せっかくの旅なんだし、楽しまなくちゃ。
「次会うときは詠唱魔法が使えるようになって戻ってきます!」
『がんばるのだぞ、エスター』
「はい!」
私が大きく頷いたところで、アレンさんがだいぶ昇ってきた陽の光を見上げた。
「それじゃァ次の町の閉門時間もありますしィ、行きましょうかァ」
「はーい」
『気をつけてゆくのだぞ』
私たちはお互い手を振りあいながら、モーラに見送られてケミスの町を出発したのであった。
エスター財布:380ユール00セッタ
エスター口座:14,764ユール75セッタ
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