050 次に会うときは

ウォーレン歴9年 萌芽の月12日 日中




 萌芽の月も半ばに近付いてきた頃。私はクラウドさんにお願いしていつもの護衛の仲間に声をかけて集まってもらった。


 クラウドさんには本当にお世話になったし、なんだかんだ私と一緒にずっと護衛をやってくれていた3人にも、旅に出る前にお礼が言いたいからだ。


 そんなわけで、私はドキドキしながらクラウドさんのお店に向かう。


 扉を開けると、カウンター前の休憩所に3人が座っていて、そしてカウンター奥にはクラウドさんが立っていた。


「遅いわよ、エスター」


「ごめん」


 シェリーが拗ねたように言うので、私は思わず苦笑いしてしまう。


「それで、我々を集めたのにはなにか理由があるんだね、エスター」


 クラウドさんの言葉に、私は背筋を正す。


「はい。あの――」


「そんなの作戦会議に決まってるでしょう」


「シェリー?」


 突然割って入ってきたシェリーに私が目を瞬かせると、シェリーは休憩所の自分の隣の椅子を示す。


「座りなさい、エスター」


「え、あ、うん?」


 とりあえず言われるまま座る。シェリーは間近でびしっと人差し指を突きつけてきた。


「あんたが戦闘要員になったのはいいけど、動きがぬるいの、まだまだね」


「うっ」


 仲夏の月に戦闘要員になるのを認めてもらって、翌月の残炎の月から雪が降る前の向寒の月まで、私は4回戦闘要員として護衛をやった。


 でも、シェリーには最初の宣言通りあれこれ注意されっぱなしだった。


 魔法初心者の私が町一番の魔法士にかなうわけないんだけど、そのへんを甘く見積もってくれたりはしないのだ。


「今月からまたクラウド様は薬草を採りに行かれるんだから、気合いを入れなさい」


「えっと、うん」


 ちょうど今月から薬草を採りに行くという話は事前に聞いていたので、頷く。


 護衛の仕事は月末近くのことだから、まあなんとか出発前に参加できるだろうと、思ってたんだけど。


「そのことなんだけど、シェリー」


「だいたいあんたは魔物を見つけてから反応するまで時間がかかるのよ」


「えっと」


 ぷっ、と突然スレイドくんが吹き出した。よく見てみたらヴィックさんもクラウドさんも半笑いだ。


「シェリー、嫌がらせはそのへんにしとけよ」


「へ?」


「別に嫌がらせじゃないわよ、餞別よ」


「え?」


 ひとり、ついていけない私に、とうとうヴィックさんが耐え切れなくなったように笑いだした。


「っは……シェリーに気圧されてるんじゃ旅で苦労するぞ、エスター。くくっ」


「え……?」


 クラウドさんはさすがに声を出して笑いはしていないけど、優しげな笑みを浮かべている。


「みんな、知っているよ。来月、旅に出るんだろう?」


「はい。……って、え?」


 つまりシェリーも他のみんなも、私が旅に出ることを知ってた……?


「不名誉だけどヴィックの言う通りよ。私程度に怖気づいてたらやってらんないわよ、たぶん」


「シェリー……」


「あーやめてそういう感動したみたいな目で見るの。私は別に寂しいとか思ってないんだから」


「それ寂しいって言ってるようなもんだよな」


 スレイドくんが混ぜ返すと、シェリーはぷいとそっぽを向いてしまった。


 えっと、なんだかよくわからないけど、これは私が旅に出るのを応援してくれてる……のかな。


 それはとってもありがたいことだ。私は椅子から立ち上がって、改めてみんなを見た。


「クラウドさん、ここの護衛にずっと入れてくださって、ありがとうございました」


「うん」


 クラウドさんは穏やかに頷く。


「スレイドくん、ヴィックさん、それからシェリー。ずっと後ろから見ているしかできなかった私を、それでも仲間にしてくれて、ありがとうございました」


「おう」


「いいってもんよ」


「ふん……」


 3人もそれぞれ返事を返してくれる。シェリーは……さっきスレイドくんに言われたのがちょっと恥ずかしいんだろう、たぶん。


 私は大きく頭を下げる。


「みなさん、今まで大変お世話になりました……!」


 詠唱魔法が使えなくても魔力供給係をやればいいってわかったのも、他のパーティでたいしてお金をもらえない中でも生活できたのも、ここのみんなのおかげだ。


 がばっと頭を上げて、私はしっかり前を見て宣言する。


「次に会うときは、詠唱魔法が使えるようになって、もっと強くなって、戻ってきます!」


 クラウドさんがぱちぱちと拍手をしてくれる。遅れて3人も手を叩いてくれて、私はみんなの応援を一身に浴びたのだった。




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