048 これからもよろしく!

ウォーレン歴9年 余寒の月19日 日中




 プレゼントを受け取ってすこし。突っ立ったままなのもどうかと思ったので、私は部屋備え付けのテーブルを示した。


「ちょっとお茶でもしませんか?」


「いいですネェ」


 私はこれは自分で買ってきた棚に、アレンさんにもらった「湯沸かしポット」を取りに行く。あとティーセットも。


 テーブルの上に並べて、ポットの下に鍋敷きを敷いて、手を添える。すぐに「湯沸かしポット」の効果が発動してお湯が沸いた。


 好きで集めている紅茶の茶葉をティーポットに入れて、お湯を注ぐ。少し蒸らしてから二人分のカップに注いだ。うん、いい色。


 私も椅子に座って、アレンさんと向かい合って軽くカップを掲げてから口をつける。……まだちょっとあっついや。


 カップを置いて、私は正面に座っているアレンさんに目を向ける。


「でもアレンさん」


「はいィ?」


「いくらなんでもこれを編むだけで2週間以上かかります?」


「ウッ」


 アレンさんが片手で前髪をくしゃくしゃにした。少し悩んだようにしてから、小さく言葉をこぼす。


「実は魔術道具の回路を描くのに時間がかかりましてェ……」


「えっ、このブレスレット魔術道具なんですか!?」


 まだちょっと着けてる感じがそわそわするブレスレットを見る。全然気付かなかった。


「効果はナイショですヨォ。使わないほうがいいくらいのものですからネェ」


「それ、余計に気になります」


「でもナイショですゥ」


「えー」


 アレンさんは私の不満顔に小さく笑ってカップを口に運ぶ。私もこれは絶対教えてくれないやつだ、と判断して紅茶を味わうほうに意識を切り替えた。


 しばしそんな感じでほのぼのして、ふとアレンさんが部屋を見回した。


「そういえばエスターサンのご家族もこの町の方でしたよネェ? ご家族でお祝いなどはされないのでェ?」


「実家のほうに行けば祝ってくれるんでしょうけど、なんだか照れくさくて。でもお母さんがいつも夜くらいにケーキを持ってきてくれます」


「そうですかァ。仲が良いのはよいことですヨォ」


「ありがとうございます」


 そのあと、冬だから室内に植木鉢をたくさん避難させてあって私の部屋が狭い話とか、アレンさんも荷物がだんだん整頓しきれなくなってきた話とか、他愛もない話をした。


 今なら言えるだろうか。私は小さく息を吸った。


「そういえばアレンさん、ちょっと提案なんですけど」


「はいィ? なんでショウ?」


「私たち、コンビを組んでけっこう経ったし、それなりに仲良くなってきたと思うんです」


「そうですネェ」


 アレンさんはまったくぴんときていない感じだ。私は緊張しながら言葉を続ける。


「その……いつまでも敬語なのも堅苦しいかなって思って、よければお互い敬語を外せたらいいなって思うんですけど、どうですか?」


「あァ」


 アレンさんは納得したように呟いて、困ったように後ろ頭をぽりぽりかく。


「構いませんヨォ、と言いたいのですがァ、この口調は癖といいますかァ、意図して外せるものではないのですネェ」


「酔っ払ったとき外れてましたよ?」


「エェ!?」


 アレンさんは心底びっくりしたように声を上げる。けどすぐもとの姿勢に戻った。


「そのォ……普段意識して使っている口調であることはたしかですゥ、ハイ。逆に意識しすぎて、エスターサンにだけ外すとなると頭の中がとても変なことになるのですネェ」


「そうですか……」


「エスターサンが外すぶんにはいっこうに構いませんヨォ」


「それじゃあなんだか不公平じゃないですか」


 うーん、とふたりで考え込む。あ、と私はいいことを思いついた。


「じゃあ、アレンさんは私のさん付けだけ外してください」


「ほゥ?」


「で、私はさん付けはそのままにして、敬語を外します。どうですか?」


「なるほどォ、少し仲良しな感じになりますネェ」


「でしょう? じゃあちょっとやってみましょうよ」


 ……変な沈黙が落ちた。


「緊張しますネェ……」


「私もです……」


「敬語抜けてませんヨォ」


「あれ?」


 ぷっ、とアレンさんが吹き出した。私もつられて笑う。ひとしきり笑って、アレンさんが先に口を開いた。


「エスターは面白い方ですネェ」


「あ!」


「はい、ソチラの番ですヨォ」


 急速に恥ずかしさが襲ってくる。でも言い出しっぺは私だし……。


「ありがとう、アレンさん。これからもよろしく!」




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