047 Happy Birthday to Me

ウォーレン歴9年 余寒の月19日 朝




 シェリーたちと依頼をしてから一週間が経った。この一週間も、アレンさんは相変わらず部屋にこもってばかりだった。


 今日もそうなのかな、としょんぼりしながら朝食を誘いにアレンさんの部屋に向かったら、ちょうどアレンさんが部屋から出てきたところだった。


「おはようございますゥ」


「おはようございます……?」


 最近なにやら張りつめている雰囲気だったアレンさんに、久しぶりににこやかに挨拶をされて、私はびっくりしてしまう。


 アレンさんはそんな私を見て不思議そうに首を傾げた。


「どうかされたのでェ?」


「いや……なんでもないです、朝ごはん行きましょうか」


「そうですネェ」


 私と並んで歩き出すアレンさんを横目で見る。なんか……普通だ。むしろちょっと上機嫌なくらいに見える。


 昨日まではもっとなんか変な感じだったのにな? と複雑な気分で食堂へ歩いて、いつものように朝食を頼んで、トレイを取って、端の方に座った。普通だ。普通すぎる。


 食前の祈りをさくっと済ませて食べ始めると、アレンさんがパンをちぎりながら口を開いた。


「エスターサン、今日の依頼はお休みにしませんかァ?」


「いいですよ、アレンさん最近忙しそうですもんね」


 何気なく返事をすると、アレンさんはもさもさの前髪をぐしゃっと下向きに引っ張る。困っているときのしぐさだ。


「そ、そうですネェ……。あのォ、実はちょっとォ、エスターサンにお見せしたいものがありましてェ、このあとお部屋で待っていていただけますかァ?」


 私はそこで初めてドキッとした。だって今日は……。


「わ、わかりました」


「ありがとうございますゥ」


 さすがに考えすぎ、という気持ちと、そうだったら嬉しいという気持ちと、なんだかごはんの味がわからない。


 その会話のあとはもくもくと朝食を食べて、ひとまずお互いの部屋に引っ込んだ。


 貴重品のウエストポーチをいつものところに置いても、もうそわそわしてしかたがない。


 いっそのことアレンさんの部屋に突撃してやろうかと思ったところで、部屋の戸が叩かれた。思わず飛びつくようにして戸を開けてしまう。


 戸の外にいたアレンさんがびっくりしたように固まっていた。私は言い訳を探す。


「アレンさん、その……」


「……お部屋に入ってもよろしいですかァ?」


「えっと、あ、はい」


 優しくかけられた声に頷いて、アレンさんを部屋に入れる。


 アレンさんの部屋には行ったことあるけど、意外と私の部屋に招いたことはなかったかもしれない。なんか緊張してきた。


「エスターサン」


「は、はい」


「お誕生日おめでとうございますゥ!」


 アレンさんはそう言うと、可愛くリボンが結んである小箱を両手で差し出してきた。


 私の誕生日、覚えててくれたんだ。しかも、プレゼントまで。


 まったく期待していなかったかというと嘘になるけど、やっぱり嬉しい。


「ありがとうございます……!」


 お礼を言って小箱を受け取ると、手のひらにすっぽり入る大きさのわりにちょっと重い。なんだろう。


「開けてもいいですか?」


「どうぞォ」


 リボンをそっとほどいて、小箱を開ける。中に入っていたのは、小さなビーズが編み込まれたアクセサリーだった。


 取り出すと、大きさからしてブレスレットだというのがわかる。


 留め金が金色で、緑色のグラデーションになるように編み込まれたビーズの輪がぐるっと腕を一周する形をしている。


 私の髪と瞳の色に合わせてくれたのはどこからどう見ても明らかだった。すごい綺麗……!


「綺麗です! とっても!」


 思わず表情が緩みきってしまう。アレンさんは嬉しそうに腰に手をやった。


「頑張って編み込んだかいがありましたネェ」


「えっ、手作りですか!?」


 私は驚いて思わず大きな声を上げてしまった。アレンさんはこくこくと頷く。


「材料からそろえましたよォ」


 手芸もちょっとはやったことあるけど、こんなに綺麗に編み込むのはそれなりに難しいはずだ。私だったらできない。アレンさんって器用なんだなあ……。


 そこで私ははたと気がつく。


「もしかして、ここ最近忙しそうにしてたり私を避けてたのって……これを作ってたからですか?」


「ウッ、そ、そうですゥ……」


 アレンさんは気まずそうにもじもじする。私はなんだか脱力してしまった。


 なーんだ、そういうことだったのか。


「嫌われちゃったんじゃないかって、ちょっと不安だったんですからね」


「すみません……」


 ちょっと本音兼意地悪を言ってみると、アレンさんはさらに体を小さくする。面白くなって、私は小さく笑った。


「でも、プレゼント、嬉しいです。つけていいですか?」


「もちろんデスゥ」


 左手首につけてみると、手に持っていたときとは重量感がちょっと変わる。意外と腕にしっくり馴染む感じだ。


 私は手首をくるくる回してブレスレットを眺める。やっぱり綺麗。


「ありがとうございます……大事につけますね!」


 私はアレンさんに満面の笑みを向けた。アレンさんも笑い返してくれる。


 心配事はなくなったし、アレンさんからこうやって誕生日を祝ってもらえたし、今はとってもいい気分!




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