045 ひとりの依頼探し
ウォーレン歴9年 余寒の月12日 朝
レイフさんが町に飛び込んできて風のように去っていってから2週間くらい経った。
最近、どうにもアレンさんの様子がおかしい。
おかしいというのは、たとえば、一緒に食事をしていてもどこかうわの空だったり、こうやって一緒に依頼を探しに行こうと部屋を訪ねたときに――。
「すみません、ちょっと立て込んでおりましてェ……」
部屋の戸を開けてもくれないで断られてしまう。
まあ、散らかっている部屋を見せたくないっていうのはあるのかもしれないけど、それでも前は部屋に入れてくれてたりしたのに。
しょうがないからひとりで依頼を探しに行く日々が続いていた。魔術道具がいい感じに使えそうな依頼、というのの見分け方も、私にもだんだんわかってきたところだ。
とぼとぼ掲示板広場に向かって、依頼が並んでいる掲示板を眺める。
ここで依頼を見つけて持って帰れば、アレンさんはいつも通り魔術道具を用意してくれて一緒に依頼をやってくれる。
でもやっぱり、なんか様子がおかしいんだよなぁ……。
とかなんとか考えていたら、ちょっと離れたところに綺麗な金髪と黒の三角帽子が見えた。向こうもこっちに気付いたようで、すたすた近付いてくる。
「シェリー?」
「エスターじゃない。いつものあのもさもさ頭の人はどうしたの?」
いつものこだわりの魔法士装束のシェリーだ。シェリーも依頼を探していたんだろうか。
「それが、なんか部屋にこもりっきりなんだよね……」
「ふぅん」
訊いてきたわりには特に興味なさげに、シェリーはお気に入りの金と青のイヤリングを揺らす。さっき彼女がいたあたりを指で示した。
「私たちちょうど護衛依頼を受けるところなんだけど。暇なら混ぜてあげなくもないわよ」
「へ?」
仲夏の月に巨大マッドワームと戦って以降、シェリーの当たりはだいぶ柔らかくなってきてたけど、まさかパーティに誘われるとは思ってなかった。思わず変な声が出てしまう。
「冬にしか出ない氷系統の魔物の生態がなんとか、っていう調査らしくて、面倒くさそうなのよね。400ユールの依頼だからエスターが入った方が割り算しやすいし」
「そ、そうなんだ……」
「で、やる?」
一方的に話していたシェリーが私の目を見つめてくる。面白そうだし、誘ってくれたのも嬉しいから、私は頷く。
「やるけど、ちょっとアレンさんに報告してからでもいい?」
「……ちゃっちゃと行ってきなさいよ」
「ありがとう!」
私は急いで掲示板広場を出る。集合住宅に駆け戻って、アレンさんの部屋の戸を軽く叩いた。
「アレンさん?」
「はいィ……?」
今度は戸をちょっと開けてひょこっと顔を出すアレンさん。私はかくかくしかじか事情を説明した。
魔術道具の扱いには注意が必要だし壊れたときにすぐ直せるように一緒に依頼に行く、っていうのが一応の約束だから、アレンさんもついてくるって言うかと思ったんだけど。
「いいと思いますヨォ。私も手が離せませんしィ、エスターサンも私がいなくても使える魔術道具が増えてきましたからネェ」
なんだかあっさりしたものだ。まあたしかに、クラウドさんの護衛のときはアレンさんはついてきてなかったし、そういうもんだろうか。
「ありがとうございます、ところでなにがそんなに忙しいんですか?」
アレンさんは私の何気ない質問に、いきなり挙動不審に体をゆらゆらさせる。
「それはそのォ……定期的に納品しているお仕事のほうがァ……」
いかにもな理由だけど、なんだか怪しい。
でも追求するのも可哀想な気がして、今回は退散することにした。シェリーたちも待ってるしね。
「わかりました。じゃあ今回はシェリーたちと行ってきます。お仕事頑張ってくださいね!」
「いってらっしゃいィ……」
きぃ、とアレンさんの部屋の戸が閉まって、私は思わず憂鬱なため息を吐いたのだった。
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