044 もっと知りたい!

ウォーレン歴9年 厳冬の月29日 深夜




 それからレイフさんにアレンさんに関する話をいろいろ聞いた。


 期待の新人がまさか魔術道具の研究室を選ぶとは誰も思っていなくてやっぱり学校中が大騒ぎになった話とか、普通の魔術道具商の人たちは決まった型の魔術道具しか売っていない話とか。


 私もアレンさんとこなしてきた依頼の話をした。奇抜な魔術道具の数々に、レイフさんはすごく楽しそうに話を聞いてくれた。


 アレンさんはすでに酔っ払っている状態でもちびちびお酒を飲み続けていて、とうとうぐっすり眠り込んでしまった。


 レイフさんが宣言通り全額を払ってくれて、背の高いアレンさんをふたりがかりで肩にかついで酒場を出る。寒い深夜の町で、ふたりして白い息を吐いた。


「いやー、来てみてよかったわ」


 しみじみそう言ったレイフさんへの印象もだいぶ変わった。友達思いの朗らかな人だ。


「私もレイフさんから話が聞けてよかったです」


「そりゃよかった」


 レイフさんは私の方を見て歯を出してニカッと笑う。ずり落ちそうになったアレンさんをかつぎ直した。


「こいつさ。あの口調とかこの髪の色とか、自己防衛なんだろうなってたまに思うよ」


「自己防衛?」


 突然そんなことを言い出したレイフさんはむにゃむにゃ言っているアレンさんに優しい眼差しを向ける。


「こいつ、魔力少ないだろ? 教育期間の実習でもしょっちゅう気絶したらしいし、変な目で見られてたと思うんだよな」


「ああ……」


 それはなんとなく想像がついた。魔力が少ない子や魔法が上手く扱えない子は、やっぱり奇妙な目で見られがちだ。


 私の学年は私がいたから他の子に対してそういうのは少なかったみたいだけど、とうっすら苦笑が浮かんでしまう。


 レイフさんにはそれはバレなかったみたいで、彼はそのまま言葉を続けた。


「でもそこに変な要素を付け足せば、そっちが変だから魔力の方はかすむだろ? なんかそういうことなんじゃねえかなって思うんだよな。いや、聞いたわけじゃないけどさ」


「そうかも、しれませんね……」


 ちょっとしみじみしてしまって、しばし無言で歩く。と、突然アレンさんが身じろぎした。ふたりで慌てて支え直す。


「今僕の頭にインスピレーションが……! むにゃ……」


 大きな寝言を言ってまたくたっとなってしまったアレンさんに、ふたりで声を潜めて笑う。


「エスターちゃん、ほんとに影響与えまくりだな」


「なんか、そこまで褒められると恥ずかしいです」


 そうこうしているうちにレイフさんの泊まっている宿に着く。眠っているアレンさんの部屋の鍵を探すのも大変なので、レイフさんの部屋で雑魚寝をするらしい。


「それじゃ、俺はわりとすぐ帰っちゃうからなんとも言えないけど、またな」


「はい、アレンさんをよろしくお願いします」


「任せろって!」


 そうして、私の初めてづくしの夜が終わったのであった。




 翌朝。まだ暗い時間帯、なんとなくいつもよりよく眠れなかったような感覚で目を覚まして、それでもしっかり広報配達の仕事を済ませる。


 この後は一緒に朝食を食べに行くのがアレンさんとの日課だけど、もう帰ってきてるかな?


 とりあえずアレンさんの様子をうかがわないと話にならない。アレンさんの部屋に向かって戸を軽く叩いた。


「アレンさーん? 帰ってきてますかー?」


「はぁいィ……」


 あ、いつもの口調だ。しばらく戸の前で待っていると、こころなしかげっそりした様子のアレンさんが出てきた。


「おはようございますゥ」


「おはようございます、大丈夫ですか?」


 アレンさんは困ったように前髪をもさもさする。


「ちょっと二日酔いですネェ……それより昨夜の記憶が曖昧なのですがァ……」


 私は思わず吹き出してしまう。なかなかすごい酔いっぷりだったけど、レイフさんの言う通り覚えていないらしい。


「わ、笑うってことはァ、なにか変なことをしたんですネェ!?」


「いや……ふふっ、面白かったですよ」


「あァ……やってしまいましたァ……」


 へなへなと肩を落とすアレンさん。私はぽんぽんと肩を叩いた。


「アレンさんのことが知れて、私は嬉しかったです。あと、これからはアレンさんのプライベートにもっと興味をもっていこうと思いました!」


「余計に昨夜なにがあったんですかァ!?」


 私は笑ってごまかしながら食堂の方に歩き出す。アレンさんもわたわたとついてきた。


 なんだか気分がいい。アレンさんのこと、これからもっと知っていけたらいいな。




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