第四章 冬ごもり
037 冬の風物詩
ウォーレン歴8年 霜寒の月24日 昼
露店をやってから1ヶ月以上経って、気温が下がって雪が本格的に積もり始めた。こうなってくると人の往来が減るので、依頼も少なくなってくる。
今日はちょうどいい依頼が見つからずに、私とアレンさんはなんとなく町を散歩していた。
町の中の道は毎朝みんなで協力して除雪をしているので綺麗なものだ。私も今年はアレンさんの「発熱シャベル」を使って参加している。
普通のシャベルだとかなり雪が硬いけど、「発熱シャベル」だと雪を融かしつつ掘れるから楽にできて助かっている。アレンさんの発想力はすごいものだ。
ふと、アレンさんが小首を傾げる。
「最近なんだか町がそわそわした雰囲気ですネェ?」
アレンさんの顔の向いている先には一軒の家があって、その手前で小さい子たちが雪で絵本の登場人物かなにかを作ろうと悪戦苦闘しているようだった。
可愛いな、と思いながら私は答える。
「来週、雪まつりがあるんです。けっこう盛大なお祭りなので、みんな楽しみにしてるんですよ」
「雪まつりなんていうものがあるんですネェ」
ここケミスの町があるニーグィ地方――王国の中でも冬に雪が降るあたり――では、雪まつりはけっこう一般的なお祭りだ。
年末のお祭りの日には、出店が出たり、雪像の出来栄えを競ってみたり、雪で作った舞台の上でいろいろな出し物をしたり――。
そんな話をしながら歩いていると、町の南東門のほうが騒がしくなった。ふたりでそっちのほうを向くと、森から切り出してきたのであろう大きなトウヒの木が運び込まれてくるところだった。
「あれも雪まつりですかァ?」
「そうそう、除雪した雪を広場に集めてるのも雪まつりの準備だし――」
話しながらまた歩き出そうとしたところで、頭の中に声が響いた。
『そなたたち、あの木をなにに使うか知っておるか?』
私たちはきょろきょろと顔を巡らせる。門からちゃんと門衛さんに会釈をして入ってくる人型のモーラの姿があった。
「モーラ!」
先月の半ばくらいにマンドラゴラの蜜を採りに行って以来モーラとは会っていない。雪が降るとマンドラゴラは冬眠して花が閉じてしまうそうだ。
『久しいな。森いちばんのトウヒの木が切り出されたので気になってついてきたのだ』
「お久しぶりです、モーラ。じゃあふたりにまとめて説明するので、掲示板広場に行きましょう」
というわけでギルドの建物前の掲示板広場に移動した。依頼が貼ってある掲示板の隣に、町からのお知らせの掲示板がある。でかでかと雪まつりのプログラムが貼ってあった。
おォ、と声を上げたアレンさんとは対照的に、モーラは不機嫌そうな顔をする。
『なんだこれは? われもさすがにヒトの文字は読めぬぞ』
「まあまあ。まず、7日後にこの町では雪まつりがあるんです。モーラも来たらきっと楽しいですよ」
『祭りか、それは悪くないな』
私はプログラムを指さしながら説明していく。
「まず昼間は出店があって、あと雪像の投票もあります。夕方になると雪の舞台でいろいろな出し物があって、夜になるとあのトウヒの木を囲んでみんなでダンスをするんです」
『ふむ、あのトウヒは祭りの飾りに使うのか』
「そういうことですね」
そういえばァ、とアレンさんがなにかを思い出したように呟いた。
「町長さんから『不燃枝』の注文が入りましたがァ……もしかして篝火に使うんでしょうかネェ?」
「あ、たぶんそうですね。篝火で広場の周りを囲んだり、光の魔法でトウヒの木を飾ったりして、なかなか綺麗なんですよ」
へえ、とふたりは声を上げた。もともと楽しみだったけど、こうやって話してみるとさらに楽しみになってくる。
「出し物ってェ……まだ参加申請できるんですネェ?」
プログラムを見ていたアレンさんがふとなにかを考えるようにあごに手をやった。
「アレンさん、なにか案があるんですか?」
「今から作るとギリギリになるかもしれませんがァ……せっかくのお祭りですしィ、盛り上げたいですよネェ」
うんうん、とアレンさんはひとりで頷く。
「エスターサン、ここはすごい魔術道具でみなさんをアッと言わせてみせまショウ!」
「やったー!」
出し物に参加なんて、町の学校の幼稚部のみんなで寸劇をやって以来だ。しかもそのときの私の役は森に生えている木。……魔法が使えなかったからしかたないんだけど。
でもアレンさんと一緒に出し物をするなら、そんな地味なことにはならないはずだ。さらに楽しみになってきた。
「それでは魔術道具の材料を探しに……おもちゃ屋サンに行きまショウ!」
「おもちゃ屋さん!?」
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