031 「飛雷針・改」
ウォーレン歴8年 爽秋の月31日 朝
翌日。今度は草原の魔物で試し撃ちもして効果をしっかり確かめた「飛雷針」を持って、私たちは森の入り口に来ていた。
今度はばっちり改良されて、魔物がただ気絶するくらいの威力の電撃が飛ばせるようになっている。
『来たな。今度は燃やさないだろうな?』
「はいィ、今度こそ大丈夫ですヨォ」
迎えに来てくれたモーラにちょっと鋭い目を向けられて、アレンさんは困ったようにもさもさ頭をかき混ぜながら答える。
そしてまた三人……ふたりと一頭? でマンドラゴラの花畑へ向かった。
花畑に着くと、私は「飛雷針」を握り直す。試し撃ちをしたから大丈夫なのはわかってるけど、なんとなく緊張する。
「じゃあ、いきますよ」
私は昨日したのと同じように、「飛雷針」の先っぽをくるくると回す。昨日と比べたらものすごく小さい黒い雲ができあがった。親指の先くらいの大きさだ。
「えい!」
先っぽでマンドラゴラを示すようにすると、パチッと音を立てて電撃が飛ぶ。電撃が当たったマンドラゴラの動きが止まった。……成功した?
『うむ、今度は燃やさずに気絶させられたようだな』
「やったー!」
「よかったですゥ」
嬉しそうに頷いたアレンさんが木箱をごそごそして、普通のガラス瓶とスポイトを取り出す。これで蜜を少しずつ集めようという作戦だ。
気絶したマンドラゴラの花に、アレンさんがそっとスポイトを差し入れる。特に拒否反応はない。これならいけそうだ。
スポイトで蜜を吸い取って、ガラス瓶に移す。3回くらいでひとつの花の蜜が集め終わった。
あとはもうひたすら、私がマンドラゴラを気絶させて、アレンさんが蜜を集めるのを繰り返していった。花がたくさんあるからたくさん集まるのはたぶんいいことだけど、根気のいる作業だ。
モーラは人間の道具に興味があるのか、そのへんに座ってアレンさんの手元をやけにじーっと見つめていた。
陽が傾き始めた頃、花畑の8割くらいの花の蜜を集め終わる。両手くらいの大きさの瓶にめいっぱい集まった。
「ふゥ……こんなもんでしょうかネェ」
「全部採っちゃってもよくなさそうですし、そうですね。瓶もちょうどいっぱいだし」
ちょっと茶色の濃い琥珀色の蜜が集まった瓶を見下ろしながらアレンさんと話していたら、モーラが近寄ってくる。
『満足したか?』
「はい」
『売れるとよいな』
「そうですね……」
そうなのだ。集めたはいいものの売れなければ話にならない。
害がないのはわかってるとして、こんなに苦労して採ったんだから、普通の花の蜜よりもいい要素があったらいいんだけど。
アレンさんがそっと瓶を木箱の中にしまって、私たちはだんだん気絶から目を覚まして不規則に揺れ始めたマンドラゴラの花畑をあとにした。
モーラとは森の境目で別れて、ふたりで草原を歩く。道すがら、自然にどこでこの蜜を鑑定してもらおうかという話になった。
「私はお菓子屋さんかなって思ったんですけど」
「お菓子屋さんもいいですがァ、それを言うなら八百屋さんや果物屋さんのほうが詳しいかもしれませんヨォ」
「うーん、ぴんときませんね。装備屋さんは?」
「魔物にはお詳しいかもしれませんがァ、アチラも生ものには鑑定が弱いかもしれませんネェ」
「うーん、たしかに……」
そうこうしているうちに町に着いてしまう。門をくぐって露店街を抜けて、私たちはとりあえず商店街の中に入った。
こうなったら目についた気になるお店に持ち込むしかない。
ふたりできょろきょろしながら歩いていたら、私はとある店のことを思い出した。
「もしかして、あのお店なら……」
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