026 【魔術拘束】

ウォーレン歴8年 清涼の月15日 朝




 翌日。今日も依頼を探しにアレンさんと一緒に掲示板広場で貼り紙を眺めていると、大通りの方がなにやら騒がしくなった。


 アレンさんと顔を見合わせて、大通りのほうを覗き込む。


 大通りでは、人波を割るように大きな馬車がこっちに向かってきていた。それを引いているのは、一瞬馬に見えたけど三本足が特徴の馬によく似た魔物だ。


「アレンさん、あれって」


「あァ、【魔術拘束】ですネェ。魔物を捕まえていうことを聞かせられる魔法ですがァ、消費魔力が多いのであまり使われませんデス。御者の人はよっぽど魔力が大きいんでしょうネェ」


「へえ……」


 そんな魔法もあるんだ。魔物を操るなんて物珍しいのでざわめきは大きくなる一方、そんな中ギルド長と町長さんがギルドの建物から出てきた。ギルド長が馬車に向かって手を挙げる。


 ざわついていた掲示板広場は馬車が停まったことで静かになった。といってもささやき声はあっちこっちで交わされている。


「今回はわざわざ王都から来ていただき恐縮です」


 馬車から人が数人降りてくると、町長さんはそう言って頭を下げる。王都から来たらしいその人たちの先頭にいた人が軽く頷いた。


「大規模な火事があったと聞いたからには、地理院として人を派遣するのは当然のことです」


 先月の森の火事のことを王都に報告したという話は噂で聞いていたけど、なるほど、その調査かなにかのために使者が派遣されてきたのだろう。


「詳しい話は中でしましょう。こちらに」


 ギルド長が促して、使者の人たちとギルド長、町長さんはギルドの建物に入っていく。どんな話をするんだろう。きっと難しい話なんだろうな。


「王都から人が来るなんて珍しいですね、アレンさん」


 と声をかけたけど、アレンさんは停まったままの馬車をじっと見つめて動かない。


「アレンさん?」


「あ、ハイ、すみませんちょっと好奇心が騒ぎましてェ」


「好奇心?」


 アレンさんは三本足の馬の魔物を指さす。指の先の方向を見てみると、魔物の長い首に光の輪が巻き付いていた。


「あれは詠唱の【魔術拘束】ですがァ、魔術道具でも再現できないかと思いましてェ」


「熱心ですね」


「アハハ」


 思わず感嘆の声を漏らすと、アレンさんは照れたように頭をかきながら笑う。そういえばァ、と何気なく呟いた。


「昨日のレイニードラゴン、どのくらいの魔力量でしたかァ?」


「え、あれですか?」


「尻尾が黄色かったのでェ、たぶん子供のレイニードラゴンだったと思うんですよネェ」


「よく見られましたね、あの状況で」


 私なんて金色の目がめちゃめちゃ怖かった印象しかない。それはそれとして、私は昨日の記憶を探った。


「ちょうどそばにいたのがアレンさんだったので……アレンさんと比べたらケタ違いっていうか、たぶん100倍くらいありましたよ」


「でも、見えたんですネェ?」


「え?」


「つまりィ、あのドラゴンはエスターサンより魔力量が少ないとォ、そういうことになりますよネェ?」


「……たしかに」


 ドラゴンは魔物の中でも別格で、ものすごい量の魔力を持っているので有名だ。子供だったらしいとはいえ、そのドラゴンより自分が魔力をもっているって改めて言われるとなんとなく変な気持ちになった。


「さてエスターサン、数字をいじりまショウ」


「へ?」


「私の魔力量は一般的な人と比べてどのくらいでしたっけェ?」


 アレンさんの意図がわからないまま投げかけられた問いに、私はぴしりと固まった。ひとの魔力量について話すのは失礼なことだ。


 現在進行形で見えてるけど、見えてるからこそ言いにくい。


「それを口にするのはかなりはばかられるんですけど……」


「みなさん見えてることですからァ、お気になさらずゥ」


 アレンさんがあっさり言うので、私は渋々答える。


「……10分の1くらいです」


「ではその100倍は一般人の魔力量と比べるとォ?」


 えっと、10分の1の100倍だから……。


「10倍、ですね」


「そうですネェ。ちなみに、私が計算したエスターサンの魔力量は一般人の30倍でェ、おおよそ間違っていないようデス」


「やっぱり私の方が大きいんだ……」


 しかもあっさり3倍とかある。ちょっと不気味なくらいだ。


「そうですネェ。そしてこのくらい差があれば、【魔術拘束】が使えますゥ」


「……へ?」


 アレンさんの言葉に、なんか、変な予感が、した。




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