024 鎮火の功労者!
ウォーレン歴8年 残炎の月2日 夕方
「おふたりさん、よくやったな!」
ギルド長に思いっきり背中を叩かれて、私もアレンさんも軽くよろめく。私はまだめまいが残ってるから、正直もうちょっと優しくしてほしい。
でもギルド長は上機嫌で、何が起こったかいまいち理解していない私も文句を言う気は起こらない。あんなにすごかった火が消えかけているんだから、それは確実にいいことだ。
「下手な氷魔法よりも威力抜群じゃねえか。ちゃんと見たのは初めてだが、アレンの魔術道具は本当にすごいんだな」
「いえいえェ。ここまで威力抜群なのはエスターサンの魔力がたっぷり入っているからでしてェ、普通に使ったら熱さましくらいにしか役に立ちませんヨォ」
「熱さましか、それはそれでいいじゃねえか。これが終わったら切り売りするか?」
「アハハ、構いませんヨォ」
なんだかすっかり話が盛り上がってるところ悪いんだけど、私には布をちょっと触った記憶しかないわけで、なにがどうなって今の状況になっているのかよくわからない。
私より先に気絶したはずのアレンさんは予想していたのと同じような状況になった、みたいな様子だけど……。
「あのー」
我慢できなくて口を挟むと、ふたりがそろって私の方を振り向いた。
「私、あの布を触っただけで特になにかした覚えがないんですけど……?」
「あァ」
アレンさんが一瞬ちょっと難しい顔をした。
「普段エスターサンにお渡ししている魔術道具は一回に使う魔力量を制限して回路を組んでいるのですがァ、あれにはその制限をかけていなかったのですネェ」
「えっと、つまり制限がかかってなかったから私の魔力が全部持ってかれた?」
「そういうことですゥ。荒っぽくて申し訳ありまセン」
私たちの話を聞いていたギルド長が不思議そうな顔をする。
「それって危なくないのか?」
「普通の方なら魔力のちょうどいい出し方をご存知なので全部持っていかれたりはしないのですネェ。エスターサンは……魔法の使い方が初心者サンですからァ」
「ははん、なるほどな」
「ぐっ……たしかに初心者だけど改めて言われると刺さる……」
私がちょっとふざけて胸に手をやると、アレンさんとギルド長が笑う。それで、とギルド長がまだ木の上にかぶさっている布を指さした。
「エスターの魔力を全部吸い取ったあれを炎の上に乗せたら、あっという間に勢いが弱まったと」
「私が気絶してる間にすごいことになってたんですね……」
うんうん、とふたりは頷く。他の人に呼ばれたギルド長は去り際にもう一度私たちの背中を叩いた。
「たぶん町長からギルドに謝礼が出るはずだから、あんたらのぶんは色をつけてやるよ」
私たちはひらひらと手を振りながら歩いていくギルド長の背中を見送る。
「アレンさん……」
「エスターサン……」
私とアレンさんはどちらからともなく顔を見合わせて、両手でハイタッチをした。身長差の関係で私がちょっとジャンプしたのはご愛嬌だ。
そして、3日後。ギルドの掲示板広場にアレンさんと一緒に向かうと、ギルドからのお知らせ掲示板のほうに人が集まっていた。
私たちも気になって見に行くと、森の消火活動をした人に対して、町長からの謝礼を分配したお知らせが貼ってあった。詳細な金額は窓口で確認できることになっているらしい。
ちょっとうきうきしながら窓口に行って、金額の照会をお願いする。窓口のお姉さんは書類をめくってちょっと驚いた顔をした。
「おふたりには……1,500ユールずつ入ってますよ」
「……!?」
「そういえばギルド長がおふたりは功労者だ、っておっしゃってましたね。お疲れ様でした」
「……ありがとうございます……」
私は思わずアレンさんのほうを見た。アレンさんは楽しそうにニコニコ笑っている。
役に立てたってことが改めて実感できて、私は嬉しくなって小さくガッツポーズをした。
エスター財布:358ユール16セッタ
エスター口座:3,445ユール95セッタ
→4,945ユール95セッタ
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