022 消火活動
ウォーレン歴8年 残炎の月2日 日中
森が火事だという知らせはあっという間に広まった。
冒険者ギルドで暇な人は全員消火活動に向かうということになって、私とアレンさんも荷物を持って森への道を小走りに駆けていた。
「さっきの雷が森に落ちていたんでしょうかネェ」
「アレンさん、その荷物でなんで走りながら喋れるんですか……」
アレンさんは魔術道具の詰まっているであろうあの木箱を背負っている。それで走って余裕の表情なんだからすごい体力だ。
なんだか静かな草原を通り抜けて、そうこうしているうちに森が見えてくる。
目立つのは真っ黒な煙だ。近付くにつれて、火がはぜる音や赤い炎もわかるようになる。
先に森に着いていた人たちが安全そうな場所にテントを張っている。そこに飛び込むと、ギルド長がてきぱきと指示を出しているところだった。
「動物使いはすぐ【動物視】で火の範囲を探ってきてくれ」
「了解」
「それまでは見える範囲の木を切って延焼を防ぐぞ。むやみに【消火】を使っても消耗するだけだ」
「わかりました!」
魔力はなにかを生み出す方が順当な使い方なので、火を消す【消火】は魔力を余分に消費する。こんな大規模な火事で使っていたらたしかに魔力の使いすぎで倒れる人が続出するだろう。
私はアレンさんと顔を見合わせた。今私たちができることといえば、木を切る手伝いくらいだろうか。
「アレンさん、木を切れそうな魔術道具ってありますか?」
「うーむゥ……」
木箱にたくさんある引き出しを次々に出したり入れたりしてアレンさんは困った顔をする。
「いまいちコレというものがありませんネェ……」
「そうですか……」
私たちが肩を落としている間にも、剣士の人たちの魔法剣や魔法士の人たちの【斬撃】で木が切り倒されていく。
「アッこっちならお役に立てるかもしれませんヨォ」
アレンさんが取り出したのは新しい魔術道具を試しに使うときによく使う丸いビン、「魔力瓶」だ。
手に持つとポーションが湧くそれは、ただし使いすぎには注意が必要。ポーションで回復できる量の倍の魔力を使うのだ。
「後方支援ですね……」
「なにもできないよりマシですヨォ」
「そう、ですよね」
私はアレンさんから「魔力瓶」を受け取る。早速ビンの中がポーションで満たされた。
「しばらくはエスターサンに任せましたァ」
アレンさんはそう言うと隅っこのほうに移動する。アレンさんがこのビンを使おうものなら一発で倒れるから、なにか他の手を探しているんだろうな。
私は魔法を連発して疲れていそうな人を探すべくテントを出た。まとわりつくような霧雨。……一応、「浮遊傘」さしておこうかな。
何人かの人にポーションをわけてあげたところで、テントのほうがざわついた。
「燃えている範囲がわかった。やはり【消火】じゃやってられん。水魔法で対処してくれ!」
「了解!」
魔法士の人たちが木を切る側から火に向かって水魔法を飛ばす側に回る。
それぞれの得意な魔法を撃っているようで、詠唱する声が入り乱れた。
私は魔法士の人たちの間を駆け回ってポーションをわけていく。そろそろ何人にあげたのかわからなくなってきた。
火が熱くて、一旦離れて一息ついていたら、誰かに肩を叩かれた。
「エスターサン」
「ああ、アレンさん」
「魔術道具を思いつきましたァ――大きい布を町まで取りに行きまショウ」
「大きい、布?」
エスター財布:388ユール16セッタ
エスター口座:3,331ユール95セッタ
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます