020 報酬アップ!

ウォーレン歴8年 仲夏の月28日 夕方




 あのあと無事に薬草を手に入れた私たちは、町の掲示板広場まで戻ってきていた。マッドワームが大暴れしたせいか帰り道は魔物も少なくて、案外あっさり帰ってこられた。


【魔力分離】カウジム・マジケ


 シェリーが私との【魔力共有】を解除すると、へなへなと地面にしゃがみこむ。


「つっかれたー……」


「あんなに振り回されたらね……」


「それもそうだし、……【魔力探知】って酔うからあんまり好きじゃないのよ」


「そうだったんだ」


 ふと見ると、スレイドくんもヴィックさんもくたびれた風情で汗をぬぐったりしている。やっぱり大物と戦うのは緊張もするし魔法もたくさん使う分疲れるのだろう。


「久しぶりにあんなに魔法剣使った……」


「大変だったね……」


 こきこきと肩をほぐしていたヴィックさんが私を見てちょっと不思議そうな顔をした。


「エスターは意外と普通だな。あんなでかい【寄生樹】放っといて疲れてないのか?」


 そう言われればそうだ。私は自分でも不思議になって小首を傾げた。


「魔法自体は私の魔力量的に全然問題なかったけど……。あのときは無我夢中で、なんだか夢の中だったみたいな気分」


「ほんと、魔力の量はバケモノ級よね」


 しゃがみこんだままのシェリーが小さく笑う。褒められたんだかけなされたんだかいまいちな私は苦笑するしかない。


 と、今まで静かに私たちの会話を見守っていたクラウドさんが口を開いた。


「そういえばエスターは今回の護衛から戦闘員に加わる代わりに報酬を増やしてほしいという話でしたね」


「あ、はい」


 なんかいろいろあって忘れていたけど、それでシェリーと魔物撃破数を競っていたんだっけ。すっかり忘れてたわ、とシェリーが呟いた。


「今回、魔物の撃退数という意味ではやはり他の3人にエスターは敵うほどではありませんでした」


「そうですね、もともと敵うとも思ってなかったですけど」


 クラウドさんは微笑む。


「しかし、巨大マッドワームという強敵を退けられたのはエスターの一撃の影響が大きいのもまた事実でしょう」


「たしかに」


「うん」


「そうだな」


「え……」


 続いたクラウドさんの言葉と、それにすぐ同意の声が上がったのに私は素直に驚く。


 たまたまうまくいっただけのような気もするけど、それも含めて認めてくれるってことだろうか。


「今の疲労度を見ても、エスターは手放すには惜しい。ここは彼女の提案通り、魔力を提供してもらいつつ戦闘員に加わってもらって、彼女の報酬を増やそうと思います」


「まあ実際戦えることはわかったわけだし。いいんじゃないですか」


「援護は俺がやればなんとかなるだろ、今日みたいに。いいと思います」


 スレイドくんとヴィックさんが頷く。最後に、シェリーがスカートの裾の砂を払いながら立ち上がった。


「私も、それでかまいません」


「みんな……」


 嬉しくて言葉が出ない私をシェリーがちょっと悔しそうに見る。


「でも次からぬるい動きしたら叱るから」


「それは、頑張ります……」


 スレイドくんが面白そうに吹き出して、その場の空気が和らいだ。それでは、とクラウドさんが笑みを浮かべる。


「公平に等分で報酬を分配させてもらいますね。今日は本当にお疲れ様でした」


 ギルドの建物に向かうクラウドさんを4人で見送る。クラウドさんはこのあと報酬分配申請をするのだ。


「等分になるといくらだ?」


「んー、500から手数料引いて475だろ、4で割るから……118ユールと75セッタだな」


「へえ、私たち意外とそこまで変わらないんじゃない」


 3人の会話を聞きながら、私はまた嬉しさがこみ上げてくるのを感じていた。報酬が増えたのももちろんだけど、私が魔力供給係以上に使えると認めてもらえたのも嬉しい。


 もっともっと頑張らなくちゃ。あ、その前にアレンさんに報告!




 ……夕飯のときにアレンさんがデザートをおごってくれたのは、また別の話。




エスター財布:200ユール16セッタ

エスター口座:3,341ユール20セッタ

       →3,459ユール95セッタ

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