017 「魔力探知球」
ウォーレン歴8年 仲夏の月28日 午前
「
シェリーが不満顔で【魔力共有】を発動させる。勝負と依頼遂行は別だとクラウドさんに言われたからだ。
「私の魔力無駄に喰ったら承知しないから」
「気をつけるね……」
今まではシェリーが私の魔力の一部を使うだけだったけど、私が【魔力共有】をした状態で魔法を使えばシェリーの魔力を少しもらうことになる。
釘を刺されて、私はまた胸が痛いのを感じながら頷いた。
ぷい、と顔をそむけて、シェリーはスレイドくんのほうに歩いていく。そのまま私たちはクラウドさんを4人で囲むかたちで歩き出した。
町の外に続く門まで歩きながら、私はウエストポーチとは別に腰に下げているみっつの袋の中から両手の手のひらくらいの大きさのガラス玉を取り出す。
両手で包むように持って少しすると、ふわっと浮かび上がって、球の中にオレンジ色の光の点がいくつか現れた。
ふわふわと私の近くをついてくるそれに、私の近くにいたヴィックさんが早速興味を示した。
「なんだそりゃ?」
「『魔力探知球』っていう魔術道具で、近くの魔力反応を光の点で表してくれるんです」
「へえ、名前の通り【魔力探知】の道具版ってことか」
「はい」
オレンジ色の点は人間で、魔物の点はそれぞれの属性に合わせて色が変わったり、魔力量に合わせてサイズが変わったりする。比較的最近アレンさんが作ってくれた魔術道具だ。
「……
そんな話をしていたら、向こうでシェリーがぼそっと詠唱したのが聞こえた。張り合われてるのがありありと伝わってくる。
詠唱魔法のほうの【魔力探知】は視界に魔力反応が重なって見えるんだったかな? もちろん使ったことないから実際どんなふうに見えるのかはわからない。
いちいち玉と実際の視界を見比べないといけないあたり、私のほうに不利がありそうだ。うう、余計に不安になってきた。
そしてついに森に続く草原に出る。私は別の袋から「火打石」を取り出して手に持ち、クラウドさんの右側を歩きながら「魔力探知球」に気を配った。
最初に魔物の点が見えたのは私たちの左側。これはもちろん反対側にいるシェリーのほうが察知するのが早かった。
シェリーが方向を指して、魔物が茂みから飛び出してきた瞬間にスレイドくんがばっさり切り捨てる。
「最初はシェリーチームが1点ですね」
クラウドさんが面白がるように言う。シェリーは当然です、と胸を張った。
「あ」
私とシェリーの声が重なる。私に近い方の茂みから、魔力反応がひとつ。
狙いすまして「火打石」をこすったら、飛んでいった火の玉が道に転がり出てきた魔物を塵にした。
ふうん、と感心したように言ったのはクラウドさん。
「同点ですね。エスターもたしかに戦えるようになっているようだ」
「これくらいまぐれでしょ?」
シェリーはそう言ってそっぽを向く。私は苦く笑うしかない。
私たちは止まっていた足をまた進めて、草原をシェリーの優勢で通り抜けた。
森に入ると一発で倒すというよりは連携して動かないといけなくなってくる。ヴィックさんは意外と乗り気で私の攻撃を援護してくれた。
「シェリーがムキになるなんて面白いからな」
「ちょっとヴィック、こっちは本気なんだから茶化さないで」
「まあたしかにめったにないことではあるな」
「スレイドまで!」
「あ、あはは……」
ぷりぷりと怒りつつも着実に魔物を撃退していくシェリー。というか怒るほど精度が上がってる気がするのが怖い。
私も「魔力探知球」の表示とヴィックさんの援護でそこそこは倒せてるけど、シェリーとの点差は開くばかりだ。
この勝負、負けたらどうなるのかあんまりちゃんと決めてなかったけど、シェリーのことだから「もう顔見せないで」とか言いそうだな……。
そんな暗いことを考え始めたころ、森の奥の方までたどりついた。もう少ししたら目的地である薬草の群生している地帯に入る。
「……ん?」
なんだか大きめの茶色い光の点が「魔力探知球」にともっている。方向的に薬草の生えているあたりだけど……?
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