第二章 渇きの夏
012 王都の研究者
ウォーレン歴8年 向暑の月12日 朝
アレンさんとコンビを組んでからひと月と少し経った。
仕事ができるようになってきてるのはけっこう嬉しいし、それでお金が貯まるのももちろん嬉しい。
コツが必要な魔術道具の練習も時間のあるときにやっていて、どんどんできることが増えてるのが実感できる。
私にしてはびっくりするペースでお金が貯まってるけど、アレンさんは道具がひととおり揃ったらもっと身動きしやすいですヨォ、と言っていた。楽しみ。
そんな私たちは今日も朝食のあとにギルドの掲示板広場に向かった。もちろん今日できそうな依頼を探すためだ。
「せっかく王都からここまで順調に来られたのに、困りましたね……」
活気のある広場を掲示板に向かって歩いていく途中、耳が気になる単語を拾った。王都?
私が思わず声の主を探して足を止めると、それに少し遅れて気付いたアレンさんがこっちに戻ってくる。
「エスターサン? どうかされたのでェ?」
「いや、今王都って言葉が聞こえたのでちょっと気になって」
「あァ、エスターサンは王都のお医者さんに診てもらうのが目標でしたネェ」
そんなことを話しながらきょろきょろしていたら、ちょっと綺麗っぽい身なりの若い男の人とおじさんの二人組がすぐ近くで顔を見合わせていた。若い男の人のほうと目が合う。
「もしかして、僕らの噂してます?」
「噂っていうか……その、いきなり失礼ですけど、王都から来られたんですか?」
「ええ、そうなんですよ」
と答えてくれたのは男の人の隣にいたおじさんのほう。ふたりは一度顔を見合わせて、私たちに向き直った。
「お二方はもしかして、この町の冒険者の方ですかな?」
「あ、はい」
「我々は王都でこの国の植物の研究をしておりまして、この時期にフィジの町付近に咲く花を調べようとここまでやってきたのです」
フィジの町っていうと、このケミスの町から北の方に行った、王都方面と反対側のひとつ隣の町だ。
歩いて日帰りで往復はきつい距離で、泊まらないといけなくなるから、この町生まれこの町育ちの私も実は行ったことがない。
「えっと、隣町ですね?」
「ええ。なのでここまでは王都からこの町に来るという商人の中に混ぜてもらって来たのですが」
「もしかして護衛をお探しということですかァ?」
さっきから静かに話を聞いていたアレンさんが思いついたように言うと、ふたりはこくこくと頷いた。
「一刻も早く行きたいところなのですが、我々はあまり攻撃魔法が上手くなくて。こうしてギルドに依頼を掲示していただいて受注されるのを待っているところですな」
「なるほど、ちなみにどれですか?」
私が掲示板を指さして訊くと、若い人のほうが同じように指をさして教えてくれる。
『フィジの町まで護衛依頼:宿代別200ユール』
宿代を出してくれるにしても、護衛依頼にしては安い報酬。これだと受注してくれる人を探すのに苦労するかもしれない。
「研究費がけっこうかつかつなので、なかなか高く出せなくて」
「そうなんですか……」
ふたりで苦笑いしていたら、アレンさんが私の顔をのぞきこんできた。
「エスターサンはご興味があるのでェ?」
「その……道すがら、王都の話とか聞けたらいいなって。実は他の町に行ったこともないし」
「ほっほゥ、そうなんですネェ。たまにはそういう経験をするのもいいと思いますヨォ?」
「それって受けてくれるってことですか!?」
嬉しそうに声を上げた男の人をおじさんがこらこら、とたしなめたけど、私の心は決まっていた。
「フィジの町までの護衛、やります。その代わり、王都の話聞かせてください」
「それくらいお安いご用です」
そして私たちはギルドの受付に行って、依頼を成立させる。受付のお姉さんたちも、だいぶ私とアレンさんのコンビに慣れてきたみたいだ。
「改めまして、私がエスターで、こっちがアレンさんです」
「初めましてェ」
「よろしくお願いします。私がトーマスでこの若いのがジミー」
「よろしくお願いします!」
自己紹介も済んだところで、私たち4人はギルドの建物を出た。私とアレンさんは急いで着替えを取りに戻る。
手頃なリュックを背負った私とやっぱりあの木箱を背負ったアレンさんでふたりに合流して、いちばん近くの北門へ向かった。
特に強盗が出たとかでなければ、町の住人は何もしなくても街道に出られる。旅行者であるところのトーマスさんとジミーさん、それからまだ町に来て日が浅いアレンさんは、それぞれ身分証を門衛さんに見せて、ようやっと町から出ることができた。
……初めての町の外、初めて聞く王都の詳しい話。なんだかんだでアレンさんとコンビを組んで護衛の仕事をするのも初めてだ。
なんだか、わくわくしてきちゃった。
エスター財布:335ユール87セッタ
エスター口座:1,677ユール90セッタ
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