第8話 4人で事情聴取
「マリアンネ。いったん落ち着いてください」
「はっ、会長! 失礼しました!」
フレイアにたしなめられ、姿勢を正すマリアンネ。それを見てから、フレイアは改めてランベルトを紹介する。
「こちらはランベルト様。そしてその保護者である、ヴォルゼフォリン様。どちらも、私たちが追っていた山賊に関する重要参考人でございます」
その言葉を聞いて、どよめきが上がる。
「
それを制したフレイアは、マリアンネをチラリと見てから話を続けた。
「これより、私とマリアンネで事情聴取を行います。マリアンネを除く各員は、普段通り日常の業務をこなしてください」
「「はっ!」」
生徒会役員たちが動き出してから、フレイアはランベルトとヴォルゼフォリン、そしてマリアンネを連れて別室に移る。
「こちらです。こじんまりとしておりますが、長くは引き止めません。マリアンネ、お茶を」
「はい!」
マリアンネが紅茶を用意する間に、フレイアは事情聴取に入る。
「これから事情聴取を始めさせていただきます。ただ、その前に」
「はい」
フレイアはじっと、ランベルトを見つめていた。
「あの、僕の顔に何か?」
「いえ、
アルブレヒト。今は失うこととなった、ランベルトの姓だ。
それを聞いて、ランベルトはビクッと肩をこわばらせる。
「もしかして、私の勘違いでしたでしょうか?」
「いえ、その通り……でした。つい昨日までは」
「“昨日まで”? 引っかかる物言いですが……何か、起きたのですか?」
フレイアが、ランベルトの言い方に疑問を抱く。
「う、それは……」
「言いづらいなら、私から言うぞ? ランベルト」
「いや、それはいいよ……。ちゃんと、僕が言う」
覚悟を決めたランベルトは、やや小声で話した。
「実は……」
ランベルトは、実家であるアルブレヒト家から追放され、今はただの平民となっていることやヴォルゼフォリンとの出会いのことを話した。
「そう、だったのですか……。申し訳ありません、お辛いことをお聞きして」
「いえ、いずれ話すことでしたから。とにかく僕は家を追放されて、それで外をさまよっていたら山賊が……というわけです」
「納得いかないよ!」
と、突然の声にランベルトはビクリと体をすくめる。おそるおそる振り返れば、マリアンネが激怒していた。
「マ、マリアンネ……?」
「なんで、あのランベルトが家を追放されるなんて……!」
マリアンネは紅茶を出すのも忘れて、怒っていた。
「落ち着け、マリアンネとやら」
「落ち着けないよ……! ランベルトが努力してたのは、ちゃんと見てたのに!」
「……仕方ないよ、マリアンネ。いつまで経っても、僕はアントリーバーに乗れなかったからさ」
それを聞いて、マリアンネは信じられないといった様子でランベルトを見る。
「本当なの、それ?」
「ああ。お父様と……父さんと約束したんだけどさ。僕は結局守れなくて、それでこうなったんだ」
「けど、それじゃあ……ヴォルゼフォリン、だっけ? さっきの銀のアントリーバーの話は、何なの?」
「こいつは、私にだけは乗れるんだ。まだ理由はわからんが、この世界にあるアントリーバーに乗ろうとしても必ず転倒させてしまう。そういうことがあってな」
ヴォルゼフォリンが割って入った。ランベルトは、ヴォルゼフォリンを驚きの目で見る。
「そしてランベルトが追放される時点で、私はいてやれなかった。そういうことだ」
「……わかったよ、ランベルト。でも、やっぱり許せないな」
マリアンネはいまだに、怒り冷めやらぬといった様子だった。
「マリアンネ。区切りがつきましたら、ランベルト様とヴォルゼフォリン様にお茶を」
「は、はい。会長」
フレイアが話を強引に打ち切る。
少しして、マリアンネが紅茶の入ったティーカップとソーサーを差し出した。
「さて、改めて本題に入らせていただきます。山賊の話ですが……あなたは遭遇した当初、逃げていたのですか?」
「は、はい。まだその時は、ヴォルゼフォリンと会っていませんでしたから」
それからランベルトは、逃げた先にヴォルゼフォリンがいたと話した。“謎の光によって導かれた”という発言はややこしさを増すため、意図して省いている。
「なるほど……逃げ込んだ先に、偶然ヴォルゼフォリン様がいた、ということですか。少し、出来すぎた話に聞こえるのですが」
「う……。でも、それ以外になんて言ったら……」
ランベルトが困った顔になる。
「わかりました。そういうことであると納得します。どこにあったかだけ、お聞かせいただけますか。マリアンネ、地図を」
「はい!」
マリアンネから地図を受け取ったフレイアは、羽ペンと赤インクを取り出して書く準備を整える。
「この地図において、どのあたりに……ヴォルゼフォリン様は、いらっしゃいましたか?」
「ここだな」
ヴォルゼフォリンは迷いなく、ある二点を
「私がランベルトと直接対面したのは、こことここだ。それ以前にも、ずっとこの遺跡で眠っていた」
「ヴォルクス遺跡……。英雄機の伝承がある遺跡でしたが、まさか私たちや王国軍でも知らない場所に立ち入ったとは……」
フレイアは残念そうな表情を浮かべながら、ヴォルゼフォリンを見た。
「ヴォルゼフォリン様」
「何だ」
「あなたの前にも、あなたのいた場所まで立ち入った方はいらっしゃるのですか?」
「いたな。ただ、ランベルトを除けば何千年も前の話だ」
ヴォルゼフォリンは天井に目線を向けながら、懐かしむように呟いた。
「最近はランベルト以外、見込みのありそうな者さえいなかったからな。下手に荒らされないよう、隠していたよ」
「なるほど、そうでしたか……」
「それはそうと、あの山賊どもは何だったんだ? 私の眠る場所の近くにいたのは、単なる偶然か?」
ヴォルゼフォリンの問いに、フレイアはコクリとうなずく。
「はい。彼らはヴォルクス遺跡の近くを根城に、長年近くの村や
「なるほどな。ただ、私の存在には気づいていなかったようだ。遺跡があったことすら、知らんそぶりだったからな」
すぐ隣でやり取りを聞いていたランベルトは、洞窟に逃げたときのことを思い出す。もし遺跡を知っていれば洞窟内でも追われていたはずだが、そんなことはなかった。
「ひとまずあなた方のおかげで、我々は血を流さずに済みました。アントリーバーはあの一件で全て喪失したでしょうから、脅威度はぐっと下がるでしょう」
「それは何よりだ。もっともこれは、ランベルトと私が生き残ろうとした結果に過ぎないがな。功績は主張せんよ」
「では、そのように教官や軍へ報告致します」
フレイアは
「ひとまず、聞きたい話は聞かせていただきました。思わぬ収穫も得られましたので、私たち学園生、ひいては学園も大きな収穫を得られた、というものです」
「それは良かった。ところで、対価と言ってはなんだが……ひとつ、要求したいものがある」
唐突なヴォルゼフォリンの申し出に、フレイアが眉をピクリと動かす。ランベルトに至っては、目に見えて表情を変えていた。
「何でしょうか?」
「ランベルトを、この学園に住まわせてはもらえないだろうか? 知っての通り、ランベルトは宿無しでな。このままでは、行くあてもなくさまようことになる」
ヴォルゼフォリンはごく自然に、悲しんだ声を出してみせる。
「この世界では成人らしいのだが、それにしてはまだ幼かろう?」
「ちょっと、ヴォルゼフォリン……」
一方的に話を進めるヴォルゼフォリンを、止めようとするランベルト。
「いいでしょう。教官たちと掛け合ってみましょう。ひとまず、本日はゲストルームへの宿泊を。費用はこちらで何とかします」
「助かるな。ランベルト、行くか。ところで、マリアンネだったか」
「はい」
「案内してくれ」
「わかりました。会長、少し席を外します」
「どうぞ。鍵はこちらです」
「ありがとうございます。では、行きましょう」
マリアンネが先導し、すぐ後ろをランベルトとヴォルゼフォリンが続く。こうして、三人でゲストルームへ向かっていった。
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