学園へ行こう

第7話 ディーン・メルヴィス学園

「あの紋章……! ディーン・メルヴィス学園の人たちだ!」


 ランベルトには、心当たりがあった。


『何だ、それは?』

「メルヴィスタン王国最大の学校だよ、ヴォルゼフォリン! もしかしたら、助けてもらえるはず!」

『ひとまず信用するか……。だがもし襲われたら、お前の命令を無視して制圧するからな?』

「それはないよ、きっと! それより、どうやって声を届ければ……」


 操縦方法を知ったランベルトだが、まだヴォルゼフォリンの機能を熟知しているわけではなかった。そもそも彼が憧れていたのはヴォルゼフォリンやその搭乗者であり、操縦方法に関しては元々の情報量も乏しかったため、あまり触れられなかったのである。


『それも操縦と同様だ。思念を込めて?』

「命令する!」

『よろしい』


 ランベルトが正解を当てると、ヴォルゼフォリンは喜色を込めた声で笑う。


(ヴォルゼフォリン、僕の声を彼らに届けてくれ!)


 ランベルトはヴォルゼフォリンに命令を下してから、告げる。


「そちらの皆さまは、ディーン・メルヴィス学園の方々かたがたでしょうか?」


 確認の声は、届いた。近づいてくる機体が、目線をヴォルゼフォリンに合わせたからだ。

 先頭に立つ、白と金の重厚な装甲を纏い、そして大型ハンマーを持った機体が返答する。


「いかにも、その通りです。そちらは何者でしょうか?」

「僕は、ランベルト・グ――」


 貴族に付くミドルネームを名乗ろうとして、ランベルトは思いとどまった。今の自分は貴族でも何でもない、単なる一平民に過ぎなかったからだ。


「ランベルトといいます!」

「わかりました。私はディーン・メルヴィス学園の生徒会長、フレイア・エストマンです」


 ディーン・メルヴィス学園の機体5台が、ヴォルゼフォリンと合流する。


「おや……? この辺りに山賊が来たはずなのですが……」

『確かに来たな。近くにいたこの5台は、すべて私とランベルトが倒した』


 突如として、ヴォルゼフォリンが会話に割って入る。


「何者ですか、あなたは」

『ランベルトの保護者と言ったところかな。ヴォルゼフォリンと呼んでくれ』

「まさか、その銀の機体に同乗しているのですか?」

『違うな。機体自体が私なのだよ』


 ヴォルゼフォリンは、自らの胸部に手を当てる。機械でありながら、人のごとき動きと心だった。


「おっしゃることが、今ひとつ理解できないのですが……」

『なら、後で理解できるようにしよう。ところで、ランベルトは先ほど、山賊に襲われたのだ。ディーン・メルヴィス学園だったか……保護してもらえるだろうか?』

「保護、ですか……」


 フレイアの機体が、周囲を巡らせる。彼女の目には、保護の必要がないと思える結果が見えていた。


「……いいでしょう。山賊たちの話を聞かせていただきたいのもありますから」

『感謝する。喜べ、ランベルト』

「はい。お世話になります」


 こうして、ランベルトとヴォルゼフォリンはディーン・メルヴィス学園に行くこととなったのである。


     ***


 フレイアたちに案内されて学園に着いた、ランベルトとヴォルゼフォリン。格納庫に入りきらなかったため、近くで立っていた。


「ヴォルゼフォリン」

『何だ』

「降りられないんだけど、どうすればいいの?」

『それも命令……と言いたいところだか、少し待っていろ。降ろす』


 その言葉に続き、ヴォルゼフォリンが光り輝く。

 次の瞬間、ランベルトは地上に立っていた。


「降りられたよ、ヴォルゼフォリン」

「何よりだ」

「うんうん……って、え?」


 ランベルトは、我が目を疑う。先ほどまで立っていたはずの18m強のヴォルゼフォリンはなく、その代わりに銀と紫のドレスをまとった美女がいたからだ。容姿は輝く銀髪に海のごとく澄んだ青い瞳で、何よりランベルトが惹かれたのは圧倒的な大きさの胸である。


「何をボーッとしている? ランベルト」

「……」


 謎の美女に話しかけられても、ランベルトは答えなかった。男ならば誰もが振り向くであろう美貌と容姿をしているのだ。童顔であり男らしさに欠ける外見のランベルトであっても、それは例外ではない。


「胸をじろじろ見るのは、私だけにしておけ。他の女性に同じことをしては、どんな目に遭っても何も文句を言えんぞ」

「は、はい……」


 ようやく我に返ると、すぐさま尋ねる。


「あの、あなたは誰でしょうか……?」

「私か? 私はヴォルゼフォリンだ。先ほどお前が乗っていた機体そのものだよ、私は」

「ええっ!?」


 ヴォルゼフォリンの言っていることが信じられないランベルトは、まじまじと見つめる。


「どこからどう見ても、人間じゃ……」

「ああ。確かに、“今の”私は人間だな。ランベルト」


 ヴォルゼフォリンはランベルトの腕をとり、自らの胸に押し当てる。


「ちょっ、待って、何やってんのさヴォルゼフォリン!?」

「こうでもしないと、私を人間だと信じなさそうな表情だったからな。私を触った感触は、機械か? んん?」

「ちょ、ちょっと……!」


 ランベルトは、顔を真っ赤にして抵抗する。華奢きゃしゃな見た目に反して、ヴォルゼフォリンの握力は格闘術の心得があるランベルトでも振りほどけないものだった。


「そんなに恥ずかしがるとは……私を女として認めてくれているのか?」

「認めるから! 間違いなく人間だから! だから離して、ヴォルゼフォリン……!」

「そうしたいのだがな、お前が可愛らしいのがいけないのだよ。ランベルト」


 ヴォルゼフォリンはさらにランベルトと距離を詰め、密着する。


「うーむ、前々からずっと見ていたが、やはりお前は可愛らしいな。ランベルト」

「うぅっ……」


 主導権を握られ、いいようにからかわれているランベルト。


「ランベルトさ、ま……」


 と、そこにフレイアがやってきた。やわく輝く金髪金眼、容姿も端麗だ。ついでに胸も、ヴォルゼフォリンほどではないがそこそこある。


「フレイアさん! ちょっと、助けて――」

「助けなくていいぞ、フレイア。私はランベルトの保護者だ」

「保護者……本当なのですか?」

「ヴォルゼフォリン、と言えばわかるかな?」


 フレイアが、目を丸くする。


「ヴォルゼフォリン……。もしや、先ほどの銀のアントリーバー……なのですか?」

「その通りだ。疑うなら、今この場で証明してみせるが?」

「いえ、結構です。先ほどの山賊に関する話さえ、聞かせていただければ」

「ならば私たちは、ついて行けばいいな」


 ヴォルゼフォリンがそう締めくくると、フレイアはコクリとうなずいた。


     ***


「こちらです」


 フレイアたち5名に案内された先は、“生徒会室”と書かれた部屋だった。


「「会長、お帰りなさいませ!」」


 部屋にいた10名ほどの生徒会役員とおぼしき面々が、一斉に起立してフレイアやランベルトたちを出迎える。ブレザーの制服に身を包む者と、明らかに私服と思われる服装の者が混在していた。


「あっ」

「あれ、まさか……」


 と、ランベルトは見知った顔と出会った。青い髪と瞳、青と白とが混じったドレスを着ていて、しかもフレイアと同じくらいに豊かな胸を持つ美少女だ。


「ランベルト! ランベルトだよね!?」

「そういう君は、マリアンネじゃないか!」




 ランベルトを見て驚いたのは、幼馴染である――マリアンネ・グレージア・エールネスであった。

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