「休日スローライフ【前】」

「おはようございます!美香みかさん!朝ですよ?」

「ん、おはよぉ…」

「きゃっ」

もう、美香さんたら朝から盛んなんですから。

今日は休日、そう、休日!それならなんでもしていいよね…


朝から営みを終えた私たちは、朝ごはんを食べようと、リビングに向かった。


リビングには、何の変哲へんてつもないザ・朝ごはん、といったご飯がならべられている。

毎日食べているが、休日に食べる朝ご飯は、なぜか裕福な家庭に生まれたのかと錯覚するような感覚におちいるのは、私だけではないはず。だって学生時代は、部活やらバイトやらで、とてもじゃないけど食べる時間なんてなかったから。だけど今じゃ、「好きな人に食べてもらえる…」なんてとてもいい日なんだろうか!


ふと目を上げると、美香さんが顔を赤くしていた。


「ちょ、何言ってんのいきなり!」


無意識に言ってしまった言葉に美香さんが照れている?なんか珍しくてかわいい。

そんなことを考えながら朝ごはんを食べ終わった。


「今日はどうするんですか?」


今日は25日ぶりの休日、だから僕はいつも通りなら一日中寝ている…でも今日は違う。目の前にはわくわくした笑顔の眼差しがとてもまぶしい。

でもこの辺遊ぶ場所ないしなぁ。どうしよう…


「ねぇ、スマホとかいる?」

「いります!美香さんといつでも会話できますし、暇つぶしにもなりますし。あ、でもそんなに高いものはさすがに…」

「値段は気にしなくていいんだよ」

「でも。」

「じゃあ、スマホを買ったら毎日LINEすること。それが守れればいいよ」

「でもそれじゃ…ぅん」


僕は琴美ことみの顎を少し持ち上げ「わがままな口」と、口をふさぐようにキスをした。彼女はすごく動揺していて、それどころじゃなさそうだったけど、僕はこれで満足した。朝からいいものが見れたもんだなぁ。


朝ご飯をすまし、近くのショッピングモールへ「スマホ」を買いに出かけた。


「ここがショッピングモールなんですね!」

「琴美は来たことないんだっけ?ショッピングモールって」

「そうなんですよ!なのでとても楽しみです!」


なんだ、それなら最初からここにすればよかったのか…でもどうしてこんな年の子がショッピングモールをしらないんだろう。なんでうちの前にいたのかとかも気になるけどこんな宝石みたいな笑顔を壊さざる負えなくなるようなことができるほど僕は腐っていなかった。


「あ、美香さん!ありましたよ携帯ショップ!」


その後、様々な手続きを済ませ、念願の「スマホ」を手に入れた。ついでだからと、ショッピングモールの中をいろいろ見て回ることにした。


「琴美ゲーセンって言ったことある?」

「ないですけど、噂には聞きました。なんでも、お金を入れると、UFOが表れて、商品を取っていってしまうらしんですよ…」


多分「UFOキャッチャー」のことだと思うんだけど、あってるのかな…「琴美はどこでそんなことを覚えたんだろう」なんてことを考えながらショッピングセンターの2階に入っているゲームセンターに向かった。


「ここがゲーセンだよ」


琴美は「うわぁ…」と口を半開きにして呆然と立ち尽くしている。


初めて見る人からすると、ゲームセンターってとても大きなアミューズメントパークみたいに感じるよな、僕も昔はお母さんにおねだりして100円握りしめてきたっけ、少し懐かしいなぁ。でも琴美はそんなことをしてきたことないんだもんな…よし。


「はい」

「え、何ですか?」

「何って、100円玉。」

「いいですよ!そんなに今日だけ結構な出費なのに。」

「あんたが出費とか考えなくていいの!ほら」


そういって琴美の手に無理やり何枚かの100円玉を握らせ、そのまま手を握りゲームセンターの中に入っていく。中は話題の曲なんかも流れていて無音とは程遠く騒がしい印象のある空間。この独特の空間が、たまに来たくなるんだよなぁ。そんなことを考えてたら琴美が足を止め裾を引っ張てくる。


「これ、」

「ほしいのか?」


琴美は首を縦に振り、「やってもいい?」と目で訴えてくるので、「頑張れ!」っとエールを送ると、握っていた100円玉を1枚機械に…


「これ…どうするんですか…」


そういえば、やり方わからないんだった。


「これはUFOキャッチャーっていって、ここに100円玉を入れると、このアームが動きだすから、このボタンを使ってアームの位置を決める。決まったらアームが下りてきて景品をつかんで、ここの穴に落ちたらゲットできるよ。ってやつ」


説明されてもいまいちわからないかんじ、てか頭がパンクしてる感じだな。


「わかった、ちょっと見本でやってみるよ。」


そういって100円を投入口に入れゲームを始める。


「まずは横の位置を合わせてーっと」

そういって美香さんは手元の右矢印のボタンを押し込んでクレーンを右に動かし位置を狙った場所に合わせる。


「次は奥行きだなぁ」

先ほど押したボタンの右側にあるボタンを押しクレーンの位置を調節。

ボタンを離すと、軽快な音楽と共にクレーンが下に降りていく。

「お、いいんじゃない?」

建物の隙間を縫うように放たれたスナイパーのように、クレーンのアームが商品の間を通り獲物を確実につかむ。そのままきれいに持ち上げ、うまくはまったのかそのまま取ることができた。

「すごいです美香さん!!」

とれたのは少し大きめのストラップ形状になっている三毛の子のぬいぐるみだった。

そのストラップをキラキラした目で見つめる琴美に「はい」と渡すとびっくりして「そんな!受け取れません!」と言ってくるので、

「じゃあ琴美も取って交換ってのはどう?」

そういうと「がんばります!」と意気込んでゲームセンターに入っていく。


といっても美香さんが喜ぶものってなんだろ。かわいいものはあんまり好きじゃなさそうだし、うわぁこういう時のために好み聞いておけばよかったぁ!


「もしかして僕が喜びそうなの選ぼうとしてくれようとしてる?」

「はい…だって喜んでほしいじゃないですか!」

「まぁわかるけどさ、でも琴美が選んでくれたものなら、なんでもましてやクレーンゲームで取ってくれたものなんてなんでもうれしいよ。だからあんまり悩まず落ちそうなの探しな?」

琴美は「わかりました!」ニコニコで探し始めた。


なんでもいいって言われても、さすがにかわいいやつがいいよね。

何台か見ながら歩いていくと、一匹のぬいぐるみと目があった。

それは、少し小さめの「長靴を履いた猫」のぬいぐるみだ。

「これかわいいけど…とれるかな?」

そう思いながらもおもむろに100円玉を入り口に入れる。先ほどと同じように陽気なBGMが流れ始める。

まずは、横の位置を合わせて…。うわぁズレたぁ!でも少しだけだしいけるかな、

恐る恐る縦の位置を合わせると、勝手にアームが下がっていく。

つかめ!つかめ!と願っているとぬいぐるみの輪郭をなでるように上がっていく…

もちろん一回では取れるわけもなくすぐさま200円目を入れ同じように狙っていく。


とりあえず琴美に千円分の百円玉を渡したけど、取れたかなぁ。でも、あの年でゲーセンにも行ったことないなんてほんとにどんな生活をしてたんだろう。

出会ってからちょくちょく考えることがあるけど考えれば考えるほど、マイナスな方向にしか思考が向かない。

いずれはしっかりと向き合わなきゃいけない過去と彼女の存在に大きな不安を抱きながら、うるさく響くゲーセンのBGMのなか暇を潰していた。


そろそろ、取れなくて焦ってる頃かな?

そう思いさっき琴美が居た台を見に行くとそこには琴美は居なかった。

どこ行ったんだろう。

「み、美香さん」

振り返るともじもじと琴美が立っていた。

「どうした?」

「これ…」と言って差し出したのはさっきまで狙っていた「長靴を履いた猫のぬいぐるみ」だった。

「おぉ、取れたんだね!」

「プ、プレゼントです…いつもありがとうございます。」

「こちらこそ!」

顔を赤くしてにやにやしてる琴美を無性に抱きしめたくなったけど、公共の面前でさすがにするわけもいかないので、ここではぐっと堪えて帰ったらいっぱい甘やかすと決めた。










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