第7話 僕達の革命①

 普通の高校生…??どういうことだ?

 僕は頭をフルに回転させるがよく分からない。それに僕には到底理解すら出来なかった。


 小野寺の方をチラリと見るが小野寺も何を言っているんだろう、といった表情をしながら黒崎を見ていた。

 見計らった黒崎は僕達に向けて強く、芯のある声で言った。


「小野寺さんは自分を普通の高校生と思いますか?」


 突然小野寺に向けられた発言に僕は咄嗟に小野寺の方を見る。

 小野寺は口をポカンと開けながらも黒崎の質問に答えようとした。


「まぁ、世間的に見ればそこまで変ではないんじゃ…それが普通に値するのかはわからないけれど。」


 小野寺は自分が普通かどうか分からなく曖昧な口調で黒崎に答えた。

 確かに僕もこの質問をされたらこのような反応になるだろう。


 だって自分自身で私は普通の高校生だと胸を張って言える人はいるのだろうか。

 まず、自分にとっての“普通”のものざしと他人のものざしがあっているのだろうか。


 そう思いながらも小野寺が汲んでくれたお茶に手をつける。

 すると僕達 2人の様子をみて黒崎は小野寺の方を見ながら言った。


「少なくとも私は小野寺渚という人間を普通の高校生とは思っていません。」


 急な爆弾発言に思わずお茶を吹き出しそうになった。

 黒崎の発言は失礼にも程がある。初めてあった日からあまり協調性はない子だと思っていたがここまでストレートに言うなんて思ってもみなかった。


「私が普通じゃないってどういうことよ」


 小野寺は明らかに不機嫌そうな声色で黒崎を問い詰める。

 そりゃあそうだろう。僕だってこんな失礼な発言をされてしまったらこうなるに決まってる。


 小野寺の様子を見て黒崎は先程と同じような淡々とした口調で僕達に説明をした。


「いい意味で、です。小野寺さんはいい意味で普通ではないのです。」


 いい意味で…?ますます言っていることが分からなくなった。

 小野寺自身もお茶を飲みながらも、よく分からないと言った表情だ。


 だが「いい意味で」というワードが加わったからか、

 先程の不機嫌そうな雰囲気は先程に比べると感じられなかった。

 僕は良かった、今のところは変な揉め事にはならなそうだ、だが黒崎の発言はどういうことなのだろうか?


 そう思っていると黒崎は説明してもいいですか?と確認するかのように、僕と小野寺に目でコンタクトをおくる。

 僕が頷くと、小野寺もコップを机に置き、黒崎の方を見ながら頷いた。


「小野寺さんは今までどれくらい表彰を受けたことがありますか?」


 急に黒崎の発言にびっくりしたのと共に黒崎の言いたいことが段々分かってきたのを感じた。

 僕の頭の中で一つずつの形の違うピースがはまっていくような感じがした。


 その様子を黒崎は僕を見て察したのかニヤリと口角を少しあげ、また話を続けた。

 小野寺は急に問われた質問を答えようと今必死に思い出しているのだろう。


 小野寺は片手をだして表彰された数を指を折り曲げて数えていた。

 するとその様子をみた黒崎は口を開いた。


「検定も含めるとどれくらいありますか?」


 その言葉を聞いた小野寺はまた必死に指をおりながら数えている。すると小野寺は数えている際にボソボソと小言をいっていたが小野寺自身は無意識に言っているのだろう。


「えっと、検定は英検が準1級で、漢検が1級…それと表彰自体は8かいほどされたことがあるわ、全て科学研究などのものだけど…。」


 その言葉を聞いた僕は目を丸くして、小野寺の方をみた。

 英検が準1級!?その言葉を聞いた瞬間僕の頭は真っ白になった。

 少し経つと、入学式の時の記憶が蘇る。

 確かに小野寺は入学式に成績トップで表彰台の上でなにか喋っていたのは覚えている…。


 頭がいい子なんだろうなとは思っていたがここまですごい子なんだとは知りもしなかった…。

 僕の成績なんかと比べると天と地の差だろう。


「そんな成績優秀な小野寺さんを果たして“普通の高校生”と言って良いのでしょうか?」


 黒崎の言っていることがやっと理解出来た気がした。

 こんな成績優秀で未来に可能性が満ち溢れた子ならクラウドファンディングで今の現状を書いて募金を募れば人は集まるのかもしれない。


「それに小野寺さんの夢はいつか、大学へ行って科学者になることですよね?」


 黒崎は小野寺に聞いた。確かに沢山の科学研究へコンテストへ応募しているような彼女だ。

 夢が科学者でも驚きはしないし、むしろそう考える方が一般的だろう。


 だが何故 黒崎はあたかも前から知っていました、というような口調で小野寺に聞くのだろうか。小野寺と黒崎の間でそんなプライベートな話をしてたとは到底思えないし、そもそも、そのような間柄でもないと思っていたのだが…。


「どうしてあなたがそのことを知っているの!?」


 小野寺は黒崎の発言に驚き、声を荒らげた。

 小野寺の反応からして小野寺自身が言ったわけでも無さそうだ。

 なら、一体どうして分かったんだ…??


 そう考えていると黒崎は小野寺の方を見て口を開いた。


「私、昨日インターネットで『小野寺渚』って調べたんです。そしたら2件ほど検索に引っかかって…調べてみると、研究コンテストで大賞を受賞された時のインタビュー記事があったんです。そちらを拝見したのですが、『いつか科学者になってたくさん困ってる人を助けたい、世の中に便利なものをたくさん開発したい』って書いてあったので…。」


 小野寺は黒崎の発言を聞くと何かを思い出した表情をした。実際にインタビューされた時に発言したんだろう。

 黒崎は小野寺の反応をみて、今もまだ科学者の夢は諦めてないことを確認する。


 もし今、違う夢だったとすれば今黒崎に対して弁解や反論をしていただろうし、小野寺自身その様な素振りを見せていないので今も科学者になりたいと思っていたのだろう。


「でも、本当に集まるのかしら…。」


 弱々しく小野寺は呟いた。

小野寺は提案自体には納得した様子を見せたが、提案が実現出来るかどうか分からず少し迷っているようだ。


 その気持ちも僕には分かる。確かに小野寺の今の生活環境や、小野寺自身の才能を踏まえてもクラウドファンディングする資格は十分にあると思った。

 立派で成績優秀な科学者の卵を応援したい!そう思う人も少なくはないだろう。


 だが、クラウドファンディングをしたところでお金を寄付してもらい、そのお金で生活費や、大学費用まで賄えるほどの金額が寄付されるか、と言ったら別問題だ。


 すると弱気な様子を見せる小野寺に黒崎は口を大きく開いて強く、芯のある声で言った。


「そんなの、やらなきゃ分からないじゃないですか!なんですか?ここで何もせずに諦めるんですか?」


 黒崎は本気なんだ、まっすぐな瞳で小野寺を見つめていた。


 その目を見た小野寺の不安そうだったが、みるみるうちにギラギラとした、まるで黒崎の発言に対抗するような力のある顔つきになった。


「それもそうよね、黒崎さん。あなたの言うとうりだわ。」


 小野寺は黒崎に向かってそう言うと、さっきまで座っていた椅子から立ち上がり、僕と黒崎を見ながら言った。


「山崎くんに黒崎さん、クラウドファンディングのやり方を私に教えて欲しいわ。」


 その言葉を聞いた瞬間 黒崎は目を輝かせ、椅子から立ち上がり小野寺の方へ向かった。


「はい!もちろんです!」


 黒崎が席を離れ、小野寺の方へ向かったので 僕も慌てて黒崎の方へ向かう。


 2017年 7月18日 この日から、僕達の中で高校生活最大の人生をかけた革命が始まった。

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