第6話 小野寺の秘密②

 小野寺は僕達を警戒するような目で見る。


「お姉ちゃん、この人たちはいい人なんだよ!僕が今日いじめられていた時もこのお姉ちゃんが助けてくれたんだ!」


 小野寺が僕達に向ける視線を幼いながらも優人くんは感じ取ったのだろう。

 優人くんはそう言うと小野寺の方へ駆け寄り黒崎の方を見た。


「優人…」


 小野寺は駆け寄ってくる優人くんを見ながら優しい声で呟いた。


「優人を助けてくれてありがとうございます。いつかお礼をするので今日はもうお引き取りください。」


 小野寺は私達に関わらないで、とでも言いたいのだろうか。

 とても言い方は冷たく目も合わせてくれなかった。

 小野寺は人に頼ることを忘れてしまうまでに追い詰められているのではないだろうか?


 そう思うと僕は思わず口に出して言っていた。


「…頼れよ」


 小さな呟きに小野寺は聞き取れなかったのだろう。

「え?」と聞き返すように言う。


「頼れって言ってるんだよ!高校生が大人ぶって1人でなんでも背負おうとするな!小野寺は優しくて強いから自分で背負おうとするんだろうが自分を押し潰してまで我慢するんじゃねーよ!」


 この時の僕は感情的だった。いつもはこんな激しい口調で言ったりしない。ましてや女の子相手に言うことは生きてて18年間1度もなかった。


「山崎くんの言う通りです。私たちにも手伝わせてくれませんか?どうしたら2人が幸せに生活出来るか、一緒に考えさせてください。」


 黒崎はそう言うと小野寺の方へ駆け寄り、小野寺の手を握った。


「もう無理なんかしないで…。渚ちゃんは十分頑張ったよ。」


 その言葉を聞いた瞬間小野寺の目から涙がこぼれた。

 今まで我慢してた感情が黒崎の一言で溢れ出したんだろう。

 小野寺は僕たちの前で声を上げて泣いた。


 小野寺が泣き止んだ後、日は暮れてもう遅かったので今日は大人しく帰ることになった。


 明日小野寺のバイトが休みということと僕達も土日で休みということでこれからどうするかは小野寺の家で話すことになった。


 小野寺は僕達を玄関で見送ってくれた。

 少し泣いたことが恥ずかしかったんだろう。恥ずかしそうな素振りを見せながらも手を振って送ってくれた。


「また、明日」


 小野寺がそう言うと黒崎と僕も小野寺の方を向いて言った。


「うん、また明日。」


 階段を降りて、二人で歩いていると黒崎が僕の方をみた。


「なんだよ、黒崎。」


 あまりにもずっと見てくる黒崎が気になって仕方なかったので僕は黒崎に尋ねる。


「いや、さっきは男らしくてかっこよかったなーって。」


 急すぎる発言に僕は動揺する。

 かっこいいなんてあまり言われたことの無い言葉をかけられたからだ。


「どうしたんだ、急に。」


 僕が照れ隠しで少し冷たい言葉を返すと黒崎はふふっと笑い、そのまま歩き出した。


 分かれ道になり黒崎と別れる。


「僕はこっちだから、また、明日」


 僕の言葉を聞き、黒崎は笑顔で僕に向かって言う。


「はい、山崎くん。また明日!」


 僕は黒崎と別れ、また歩き出し、家へ向かった。


 家に着き、自分の部屋へ入る。


 今日のことを考えるとまるで夢でも見ていたんじゃないかと思った。


「こんなことって普通ありえるのか…?」


 1人の部屋でそう呟く。

 今日の出来事はまるでどこかのドラマで見るような、偶然が起きたりした。そして、同じ学校のクラスメイトがあんな状態なんて思っても見なかった。


 僕がどれだけ甘やかされていたかを思い知る。


 小野寺は僕が自由とはなんだろうなんて

 自分に酔ってるようなことを考えてる時に、

 必死に生きるために働いていたと考えると自分がちっぽけな存在に見えて仕方なかった。


 これ以上考えても仕方がない。もう寝よう。


 結局その日はご飯も食べずにそのまま寝てしまった。


 目覚ましのアラーム音が僕が起きる時間だと、知らせてくれる。


「もう、こんな時間か。」


 顔を洗って、シャワーを浴び、服を着替える。


 今日は黒崎と小野寺に会う日だ。

 会うと言っても遊んだりするのではなく、今後のことについて作戦を練るのだ。


 昨日黒崎は帰り際に小野寺に向かって言った。


「私、考えがあるんです。もしかしたら渚ちゃんが働かなくてもいいかもしれないです。」


 そのことから話が広がり、黒崎が一応家に帰って調べたいことがあるから具体的な話は明日にしよう、と言った。


 黒崎の考える作戦とは一体どういうことなんだろうか。

 僕には検討もつかなかった。小野寺も検討がつかない、と言った表情で黒崎を見ていたので僕がまた、鈍感で気づかないとかでは無いのだろう。


 そんなことを思い出していると家を出る時間になったことを気づき、慌てて家を出る。


「晴人さん、どこへ行くの?」


 この声は母だ。くるりと後ろを振り返ると、何も告げないで朝早くから外へ出ようとする僕が気になったようだ。


「友達の家へ行ってくるよ。夕方には帰ります。」


 その言葉を聞くと母は少し動揺を見せたが、少し経つとすごく嬉しそうに目を輝かせて僕に言った。


「晴人さんのお友達!? お母さん、気になるわ〜!!」


 僕が今まで友達の家へ行く、なんて言わなかったからだろう。母はすごく興味津々に僕を見つめる。


「はい、今度連れてきます。行ってきます、お母さん」


 母が嬉しそうに喜んでいたので思わず連れてくるなんて言ってしまった。

 まぁ、後々はぐらかせば何とかなるだろう。


 そう思いながら時計を見ると明らかに時間に間に合わなさそうだった。


「え、時間…!?やばい!!!」


 僕は全力疾走で小野寺の家へ走った。


「ハァハァ…」


 小野寺の団地の前へ着くが待ち合わせした時間より10分遅れてしまった。


 これは黒崎に怒られるな、そう確信しながら階段を登る。

 小野寺の家の前に着き、チャイムを鳴らす。


 すると聞き覚えのある声で「あ、やっと来たみたい〜!」と言われた。


 ドタドタと走る音が聞こえる。絶対黒崎だろうな、そう思っているとガチャンとドアを開ける音が聞こえた。


「遅くない〜?山崎くんは待ち合わせに遅刻する男なんだね!」


 そこには私服を着た 黒崎一夏が立っていた。


 髪は2つにまとめられており、可愛らしいブラウスとスカートを着た彼女はどこか新鮮だった。


「渚ちゃん、社長が来ましたよ〜」


 遅れたことに関して大きな声で少し嫌味っぽく黒崎は言った。

 確かに遅れたことは悪いがそこまで言わなくても…と言いたくなったが、ここで言うと更にイジられると思ったので黙った。


 靴を脱ぎ、リビングへ向かうと小野寺の姿がそこにあった。


「あれ?優人くんは?」


 僕が小野寺にたずねると小野寺は僕の分のお茶をコップに汲みながら言う。


「優人がいると話が進まなさそうだったから友達とプールに行かせたわ。」


 確かに優人くんがいると話したいことも話せそうにない。

 そんなことを考えていると、黒崎がリビングに置かれた椅子に座った。


「そんなことより、話そっか!どうすればいいか」


 黒崎がそう言うと部屋の空気が一気にピリっとするのが分かった。


「そうね、今日はそのために集まったのだし。」


 小野寺はそう言うと空いている椅子を引いて座る。


 2人とも座っていたので僕も空いている席を見つけて座った。


 黒崎は真面目な顔をして僕達に問いかけた。


「2人はクラウドファンディングって知ってますか?」


 クラウドファンディング…?名前だけは聞いたことある。

 募金みたいなもの…というくらいの認識でしかないが。


 すると小野寺が口を開いた。


「ええ、確かインターネットを使って、目標を設定して募金を募るってものよね?」


 その言葉を聞いた黒崎はニヤリと笑みを浮かべ、話を始めた。


「そうです!そのクラウドファンディングを活用して、小野寺家に募金を募ればいいのです!」


 僕の頭が思考停止した。僕がパソコンだったら今聞いたことを保存もせずに強制シャットダウンをしていただろう。


 そんな個人のためにお金が集められるのだろうか、

 まずどうやって集めるんだろう?


 インターネットで出来るのは分かっているが、難しいのでは無いだろうか?手続きなどで未成年は出来ません、と言われたらそこで試合終了な気もするが…。


 そう思いながらも目線を小野寺に向けると、小野寺は真剣に聞いていた。

 少し動揺はしていたが、予想外の発言に興味を示している、と言ったところだろうか。


「でも、どうやって集めるのよ。ただの高校生と小学生が生活するのにお金がなくて困ってます。恵んでください。なんて言っても誰も渡すとは思えないわ。」


 確かにそうだ。

 普通の高校生が生活費を募金したとして誰が募るのだろうか。

 すると小野寺の言葉を聞いた黒崎は不敵な笑みを浮かべ、言った。


「普通の高校生なら、そうですね。」

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