マリーアントワネット結合三生児


 やっと待ちに待ったハロウィーンがやってきた。


 校内は大騒ぎで生徒のみんなはパレードの用意に忙しい。


 三人も授業の後で仮装の用意を始める。


 パミュが琴音とめいのためにメークを始めた。


「死に顔はやっぱり、真っ白じゃなかといかんね。血の色が強烈に見えるごつね」


「でもちょっとは、可愛く見えるようにして」


 琴音が頼む。


「怖可愛(こわかわ」?」


「そう、そう」


「目の周りは真っ黒の方が怖かけんね」


「白顔に黒目だったらパンダに間違えられん?」


「パンダが盛り盛りの金髪ウィッグかぶるわけなかやろ!」


 パミュは琴音を信じられないという顔で見る。


「唇も真っ黒で、真っ赤な血が口から垂れ下がる。いい感じ」


 パミュは筆を動かしながら、自分のメークに納得する。


「ウィッグを着けて、ウィッグは気が狂った女のように、ボサボサしちょっと」


 マリーアントワネット調の高く盛ったウィッグを、櫛でわざと崩していく。


「首をぶち切られたんやけ、血がバッて飛び散った感じば出さんといかんね」


 真っ赤な液体が入いったスプレーで、「シュッ、シュッ」と首から下を染めていった。


「もしかして、わたし天才かもしれん。

 ヤンキーがマリーアントワネットの亡霊に生まれ変わった」


 パミュは一人で感心している。


「仕上げを忘れとった。琴音、ちょっと目を大きく開けて」


 カラコンを取り出す。


「あーん、あんた、口開けてどうするん。目ば開けんね、目っ」


 真っ赤なカラコンを琴音の両目に入れた。


「これ傑作やね」


 三時間という長い時間をかけて、マリーアントワネット結合三生児は完成した。


 三人は他の生徒たちと一緒に、天神の繁華街へと歩き始める。


「これ歩くの大変やね。三人で歩く練習せんかった」


 パミュは二人と歩調を取ろうとする。


「ドレスの裾が長いけ、後ろから踏まれんようにせんとね」


 琴音が後ろを振り向く。


「めい、前見える?」


 パミュが聞いた。


「だいじょうぶ。ちょうどオッパイのところに、穴開けてるから前は見えるよ」


 とこもった声が帰ってきた。


 めいは一番背が低かったので、首なしのマリーアントワネットになった。


 顔を見せないために首なしの胴体を作って、その中に隠れている。


 三人は仮装行列に加わる。


 路上脇には多くの人が集まって、携帯で写真を撮り続けている。


 マリーアントワネット結合三生児は格別怖いようで、特にパミュは街行く人々の反応を楽しんでいる。


「相当怖がられてる」


「反応いいね」


「もしかしたら賞取れるかも」


「二十万山分けなら、一人、六万六千六百六十六円」


「何ば買う?」


「まだ決めてない」


「琴音は?」


「まだわからん?」


「めいは?」


「結婚ドレス」


「ほんと?」


「あんた、結婚するん?」


「そうなるかも」


 琴音は路上脇に佇む親子の姿を発見した。


 ハナは父親に抱かれて仮装行列を楽しんでいる。


 父親の横に寄り添って、お母さん役をしている幸せな自分を想像する。


 再び琴音の胸に恋の火が灯った。


「ちょっと左に寄って」


 琴音は二人を誘導する。


「なんで?」


「なんでもいいから……」


 二人を左側に寄せようとする。


 めいが左側に立っている親子ずれを確認する。


「もしかして、琴音、あの二人?」


「そう」


「あんたら、何のこつ?」


 パミュは状況を理解しようとする。

 

 ここまで来れば、めいも隠していられない。


「あそこにいる親子の父親に、琴音が惚れてるの」


 めいは唐突に話を繰り出す。


「どこどこ?」


 パミュはその親子を探す。


「あそこ」


 めいはマリーアントワネットの生首を、親子の方向に向けた。


「あの女の子を抱いてるサラリーマン?」


「そう、あの人」


「琴音、正気?」


 琴音はもう二人の話を聞いていない。


 ただただ二人に逢いたい思いが強く、自分の立場も理解できなくなっていた。


 親子は過ぎ去っていった行列を眺め続けているので、琴音たちが近づくのは気付いていない。


 ハナの後ろ姿に琴音は声をかけた。


「ハナちゃん」


 自分の名前を呼ばれたハナは、声の方角へ振り向いた。


 琴音はハナに、慢心の笑みを浮かべているつもりだが、ハナには首を切断されたお化けと、鬼のような真っ赤な目をして、全身血だらけの幽霊が目の前に待ち構えていた。


「きゃー、きゃーっ、おとうさん、怖いー、きゃー!」


 叫びちらすハナは泣き出した。


 それを見た父親も大きく目を見開いて、「ワ〜ッ」と喚いて、ハナを強く抱きかかえたまま、沿道に溢れる観衆の中に逃げ去った。


「ハナちゃん、待って!パンプキンお姉ちゃんだよ、ハナちゃ〜ん!」


 琴音は二人の後ろ姿に叫んだが、その声は観衆の中に吸い込まれていった。


「うち、もう死にそう」


 肩を落とす琴音に、


「あんた、もう死んどるやん」


 パミュは琴音を笑わせようとする。


「これで良かったんよ」


 パミュは今にも泣きそうになる琴音をなぐさめる。


「私もそう思う」


 首無しのめいもうなずいた。

 

 今年二度目の恋が残酷にも終わった。





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何卒よろしくお願いします。

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