題31話 着ぐるみバイトとパンプキンパイ
学園祭も終わり、そろそろハロウィーンの季節がやってくる。
秋も深まり学園内では、また活発な動きがある頃だ。
学生たちはハロウィーン仮装行列に出るための、コスチュームの制作を始める。
校内では至る所で、ファッション科の生徒たちが、二週間後に控えたハロウィーン・パレードの計画を話し合っている。
琴音たち三人もコスチューム制作で頭がいっぱいだ。
今日もランチを食べ終わった後で話し始めた。
「ハロウィーンは何ばする?」
パミュが琴音とめいに聞いてくる。
「後二週間だから、そろそろ何になるか決めないとね。誰かアイデアある?」
めいが二人を見る。
「なるべく簡単なのにしようよ」
「琴音はハロウィーン・パレードで賞取る気なかと? 副賞二十万ばい」
パミュが驚く。
「そんなことないけど、明日から一ヶ月バイト見つけたけ、あんまり時間がないんよ」
二人に告げた。
「それ、初耳。何のバイト?」
パミュが興味深く聞いてくる。
「天神新天町のベーカリーで、パンプキンパイ売るの」
「パンプキンパイか、美味しそう」
めいが興味を持つ。
「だから放課後はバイトやけ」
「それ、ヤバイよ。やったら何も出来んやん」
パミュは困った顔をする。
「週末やったら手伝えるけど……」
琴音は恐縮した顔をする。
「ひとつアイデアがあるんやけど」
パミュが話し始める。
「なに?」
めいが興味深そうに体を乗り出す。
「あのね、マリーアントワネットは悲劇のヒロインなんよ」
「またマリーアントワネット? それやめて! マリーアントワネットの虚ろな目で、ずっこけて大恥かいたんやけん」
勘弁してくれと言うように、琴音は反対する。
「でもあれで十五万も稼げたやろ。琴音、五万稼ぐのに、バイト五十五時間もせんといけんとよ!」
パミュは自分の立場を主張する。
「結果はそうやけど」
琴音は黙った。
「まず聞いて、聞いて!」
先を続ける。
「フランス革命で、フランス女王マリーアントワネットは犯罪者にされて、ギロチンで首を落とされた」
「ゲッ、ギロチン?」
「そう、だから悲劇のヒロイン。首を落とされた時は、真っ白のドレスを着てて、真っ赤な血がドレス中に飛び散った!」
「それ、恐っ」
めいが唸る。
「だから首なしのマリーアントワネットが、血だらけの真っ白なドレスを着て、両手で自分の首を持って歩くのはどげん?」
パミュが不気味に笑って、二人を見つめる。
「それ、恐怖、恐怖!」
めいが叫んだ。
「でもマリーアントワネットは一人やろ。私たち何やればいい?」
琴音が聞き返す。
「そこが、今回のポイント。この先、聞きたい?」
パミュが勿体ぶって話を止めた。
「聞きたい、聞きたい」
「それから?」
「マリーアントワネットが、結合三生児やったらどうする?」
「結合三生児?」
二人はパミュの意味がわからない。
パミュは不気味な笑いを顔に浮かべながら先を続ける。
「体はひとつやけど、頭が三つあって、手は四本。三人が胴で繋がれとる」
「わー、それ、もう恐怖の限界!」
「やめて、止めて、今晩寝られん!」
「真ん中の子は、首なしで、両手で自分の頭を持っとって、端の二人は目の周りが真っ黒で首から下は血だらけ」
パミュは異様な笑いと共に、白目をむいた。
「キャーッ」
大きな声で叫んで、二人は身震いする。
大声を聞いて周りの生徒たちは、何のことかと三人の方へ振り向いた。
「あっ、ゴキブリ!」
と叫んだ後で、パミュは自分の靴を脱いで、テーブルの上を強く叩いた。
「ご安心くださーい、ゴキブリご臨終です」
胸の前で十字架を斬った後で、天を崇めた。
次の日からパミュとめいは、放課後に白いドレスを作り始める。
琴音は天神新天町にあるベーカリーで、バイトを始めた。
授業が終わった後、琴音は学校から天神まで十分ほど歩く。
地下鉄駅近くにあるベーカリーに入って、店長に自己紹介する。
「福岡ファッション専門学校の桜琴音です。よろしくお願いします」
「あっ、桜さん、今日からよろしく。この季節限定のパンプキンパイが好評で、きゅうきょバイトに来てくれて助かります」
店長は喜ぶ。
「今日は何をすればいいでしょうか?」
「桜さんの仕事はアドバタイジングです」
「アドバタイジング?」
琴音は何のことだかわからない。
「とにかく一番大事な仕事だから、まずは奥で着替えてください」
店長と二人で、店の奥へと入っていく。
琴音が理解できなかったアドバタイジングとは、まん丸なカボチャ色をしたパンプキンの着ぐるみを着て、店頭でパンプキンパイの切れ端を乗せたプレートを持ちながら、通り過ぎる通行人の足を止める仕事だった。
琴音の着ぐるみ姿は、いかにも大きなカボチャから細い手足が出ている、とても滑稽な姿だった。
頭にはカボチャをくり抜いた時の、茎の部分が付いている帽子をかぶらなければならない。
「季節限定、パンプキンパイ、お召し上がれ」
街ゆく人に話しかける。
「やっぱり普通のバイトより、百円高いのには理由があった。これ絶対誰にも見られたくない」
心の中で思いながら、あたりを見回し続ける。
そんな時に限って、見られたくない友達に出会う。
人生とはいつもそういうものだ。
親友のパミュとめいが、商店街を歩いてくるのが見えた。
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