題28話 ウララ…ウララ…ウラウラよ!


 琴音にとって、苦痛に感じ始めた長い夏休みがやっと終わって、新学期が始まった。


 東京に帰っていためいも、久々に福岡に戻って来た。


 まだ少しだが、秋の面影を思い起こさせる、季節の変わり目を感じ始めていた。


「琴音、ひさしぶりっ!」


 めいは懐かしそうな笑顔で迎える。


「やっと長い夏休みが終わって、めいに会えて本当に嬉しい!」


 彼女を抱きしめた。


「普通は夏休みが終わるのが、メッチャいやなんじゃないの?」


 めいは驚く。


「今年の夏休みは、パミュがバイトしているメイドカフェで働かされて大変やった!」


「インスタで二人の仕事場見ていたけど、随分とメード似合っていたよ」


「あの仕事、うちには全然合わん!」


 琴音が言ったところに、パミュが近づいて来た。


「めい、ひさしぶり! うちら、おらんくて寂しくなかった?」


 自信有り気に尋ねる。


「確かに、二人の濃いスープの中にいたから、東京が随分とあっさりしすぎていたのは確か」


「そうでしょ、二学期はより一層コッテリするけんね」


 パミュが笑う。


「でも二人のメイドはなかなか良かったんじゃない?」


「そげんやろ〜っ! 琴音は中年のおやじに惚れられて、大変やったっちゃん。ねっ、琴音!」


「まあまあ、それはあんまり言わんでもいいやん。

あのこと、思い出したくもない」


「中年キラーの私も脱帽」


 パミュは悔しそうな顔をした。


「話は変わるけど、もう文化祭まで一月もないんだけど」


 めいが言い始めた。


「何やろうか?」


 琴音が夏休みの話題から、逃れることが出来てホッとする。


「絶対ロリータ・ファッションショーに作品ば出すけん!」


 パミュは大きな声で叫んだ。


「そんなのあんの?」


「そう、ロリータ・ファッションショーは、この学校の伝統やって先輩が言いよらした。やけん、手伝ってね!」


 二人を見る。


「わたし何をやればいい?」


「わたしがデザインしてドレープするけん、めいは縫うの手伝って!」


「じゃあ、うちは?」


「琴音は、やっぱりモデルやろっ!」


「今度はロリータやらんといけんの? きのうまでメイドやったのに」


 戸惑いの色を隠せない。


「メイドがやれれば、ロリータもお茶の子さいさいやろ?」


「それ、やめてってばー。それに、ちょっとジャンルが違うんやない?」


 琴音は乗り気でない。


「あんた、ヤンキーやけん、歌に例えれば演歌やろ。

 メイドがJポップやとしたら、演歌うたってる琴音が、

 Jポップ歌えたんやけん、ちょっとだけ違うKポップも歌えるやろ?」


 パミュが最もらしく言い始める。


「なんね、それ?

 無理、無理、韓国語もわからんうちが、Kポップ歌えるわけないやん!」


 琴音は反撃する。


「でもパミュは、本物のロリータやけん、自分でやれば?」


「琴音、認めたくなかばってん、ステージの上では太めのロリータよりも、美脚のあんたの方が可愛く見えると! 

 それに優勝したら、校長から十万円貰えるっ聞いたけん、勝ったら山分けしてもいいけんね!」

 

 またパミュの悪い誘いに乗りそうになるが、琴音はなんか悪い予感がした。


 最後に賞金を山分けするという誘惑に負けて、オーケーと言ってしまう。


 三人はパミュがデザインした服を制作し始めるが、作業は毎日放課後に行われた。


 まずはパミュが自分でトワルをドレープして、琴音に着せてみる。


 パミュとめいは話し合いながら、服のディテールやプロポーションを決めた。

 

 次にみんなで生地屋に行って、ドレスに合った生地を探す。


 パミュはいつものように、ピンクの生地を選んだ。


「可愛〜い! このピンクの生地どげん思う?」


「またピンク? うち、ピンク絶対似合わん!」


 琴音が反対した後で、自分の好きな生地を見つける。


「あっ、これは?」と赤のサテンを手にとった。


「真っ赤?」


 パミュが愕然とする。


「ロリータはそげな色、絶対選ばん! 

 そんなけばけばしい色やったら、山本リンダになるやろ!」


 パミュが付け足す。


「山本リンダ? それ誰?」


 めいは聞き返す。


「『ウララ……ウララ……ウラウラよ』のおばさん知らんと? 

 もう七十ぐらいだけど、美脚ですごいパワーがある昭和アイドル」


 パミュは説明しながら、その曲を踊り始めた。


「山本リンダのどこが悪い! 北九州出身の唯一有名アイドルや!」


 琴音が文句を言いたそうに、パミュに投げつけた。


「あのおばさん、北九州なん?」


「そう」


「やっぱり近くて遠い福岡と北九州!」


「それ、どう言う意味?」


「福岡のアイドルと言えば、松田聖子とか浜崎あゆみやけど、北九州は山本リンダやろ。

 それって、ギャン距離があると思わん?」


 パミュは続ける。


「わたし、話題がローカル過ぎてわかんないけど、とにかく生地を選ぼうよ。この色が一番可愛いと思うけど、どうっ?」


 ライトブルーの生地を手にとって、琴音の顔のそばに添えてみる。

 

 長い間三人は、三色の生地を前に話し合った末、最終的には琴音がモデルなので、彼女に一番合うライトブルーを選んだ。





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