題25話 なんでヤンキーがメイドに……?


 瞬く間に、入学から四ヶ月は過ぎて行き、待ちに待った夏休みが明日から始まる。


 夏休みぐらいは、バイトを見つけないといけないと思っている矢先に、パミュが琴音に頼み込む。


「琴音、ちょっと、あんたに頼みがあるっちゃけど」


 いつもと違って、必死な眼差しだ。


「なんね?」


「急にバイトの女の子がやめて、今うち一人っちゃん。

頼むけん、新しい女の子が見つかるまで手伝って!」


 拝むように頼んだ。


「うちがメイドにならんといけんの?」


「数日だけやけん、お願い!」


 深く頭を下げる。


「無理、無理、無理、それ無理!」


「親友のピンチを助けるのが友達やろ!」


「それはわかってるけど、メイドになるのはだけは勘弁して。

ヤンキーにはヤンキーのメンツがあるけ!」


 頑固に拒否する。


「誰にも言わんけん、ね、ちょっとだけ。

もう頼む人がおらんとよ」


 泣きべそをかき始める。


「パミュ、泣き真似してもダメ!」


「ばれた?」


今度は全く反対の態度をとる。


「そうかい、じゃあ、ねえちゃん、指をつめてもらおうか!」


 さっきまでサラダを食べていた時に、使っていた白いプラスチックのフォークを突き出す。


「あんた、それで脅してるつもり?」


 琴音は請け合わない。


「わかった。じゃあ、時給五十円上げてもらえるごつ、マネジャーに頼むけん。ねっ、ねっ?」


 拝み倒してくる。


 お金のことを言われ始めると、話が少し変わってくる。


「本当に何日かでいいんやね?」


「そう、新しい店員をマネジャーが見つけらすまで」


「八十円余分にもらえるごつ交渉してみるけん」


「絶対、誰にも言わんでね!」


 とうとうヤンキーの琴音がメイドに変身することになってしまった。




 夏休みが始まった日、琴音のバイトも始まった。


 早速パミュに連れられて、メイドカフェに入る。


「店長、おはようございます」


 パミュは大きな声で、後ろを向いている男性に声をかけた。

 

二重あごで、態度が女性っぽい男が振り向いて返事を返した。


「パミュちゃん、今日もよろしくっ!」


「今日は臨時の友達を連れてきました」


 彼に琴音を紹介する。


「お願いします」


 琴音は少し緊張して頭を下げた。


「助かったわ。

今日はどうしようかと思ってたの」


「格好はイカついけど、顔は可愛いじゃなーい。いい感じ」


 店長はとても納得している。


「あなた、メイドの経験は?」


「初めてです」


 顔を少し赤くする。


「じゃあ、わたくしがメイドのセリフを教えてあげるっ!」


 えげつないポーズをとるが、多分自分では可愛いと思っているのだろう。


「はあっ……」

と答えた琴音の言葉には、大きな後悔の色が感じられた。


 やっぱり金に釣られるんじゃなかったと思ったが、もう遅かった。


「お名前は何て言うの?」


「さくらことねです」


「まあ、まるで芸者さんのような名前ね! それじゃあ、メイドのイメージに合わないわね」


 店長はしばらく考える。


「これはどう? 琴音の琴をとってハープちゃんは?」


「ハープ?」


 思わず琴音は、戸惑った声をあげる。


「こっちの方が良いかも。琴音のおとをとってメロディーちゃんは?」


「げえっ、メロディーですか?」


 前以上にやばそうな声を出す。


「そう、メロディーんだったら最高じゃない? パミュちゃんどう思う?」


「それ、最高じゃないですか? 店長!」


 パミュは他人事ひとごとだと思ってニヤニヤ笑っている。


 店内ではみんなから「ごますりパミュ」と言われているのを、琴音はまだ知らなかった。


 こうして琴音のメイドネームが決まった。


「じゃあ、メロディーん、制服に着替えてくださーい。

あなた、細身だから服はSで十分じゃない? 

靴は二十二から二十五まであるから、お好きなものを!」


 店長はまたテーブルの用意に戻った。


「わたしが手伝ってあげるから、奥で着替えよっ!」


 パミュが嬉しそうに、琴音の手を引いて奥に入った。

 

 白とライトブルーのメイドドレスがかかっているラックの前で、パミュはSサイズを探す。


「これSだ! フリルが多かけん、ギャン可愛かよ!」


「フリル付き過ぎやない?」


「じゃあ、これ?」


「それ、短かすぎ!」


「琴音は……ごめん、メロディーんは美脚やけん、めっちゃ合うばい。

これにしょっ」


 パミュは勝手に決めてしまった。


「靴は何センチ?」


「普通は二十三」


「この方がよかね」


 白の少し高めのヒールを選ぶ。


「あんた、着替えて。うちは外で待っとくけんがら」

と更衣室を出たすぐ後で、


「ストッキングはこれやけんね」


白のストッキングを、開いているドアの隙間から投げ入れる。


 数分して琴音が更衣室から出てくると、パミュは大きな声を上げた。


「メロディーん、ギャーン可愛か!

 ヤンキーより、メイドの方が似合うかも!」


 レースのカチューシャを琴音の頭に付けた。


「これで本当のメイドやね」


 携帯で写真を撮ろうとすると、何かが足りないと言うように、写真を撮る手が止まった。


「ちょっと、胸のところで両手でハート作ってみて」


「そんなポーズ絶対出来ん!」


 両手の腕を胸の前に組む。


「一度だけでいいけん、やってみて」


「嫌だ!」


 琴音はソッポを向いた。


「お客が沢山来たら、それだけ給料多く貰えるけん。

ここは金の為に目を瞑ってくれんね!」


 しょうがなく琴音は、両手を胸の前で合わせてハートを作る。


「そこで不貞腐れたってしょうがなかやろ、えがお〜、チーズ!」


 パミュは携帯を構える。


 琴音の不貞腐れた顔が、一瞬笑顔に変わる瞬間をパミュの携帯が捉えた。


 パミュは素早くイメージをツイッターに上げると、幾つもの「いいね」が連発し始める。


 それほどメロディーは可愛く見えた。





「面白かった」「続きが読みたい」


と思ったら、


☆☆☆を押してください。


「レビュー」も頂ければ最高です。


何卒よろしくお願いします。

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