題20話 愛しのオスカー


 三人が食堂でワイワイガヤガヤと騒いでいる時に、三人の前を一人の男子生徒が通る。


 頭を抱え込んでいる、パミュを見ていた琴音とめいの目は、男子生徒の方へと移った。


 二人の目は彼を追い続ける。


 如何にも魔法にかけられたように、彼の魅力に引き寄せられたという方が正しい。


 魔法から解かれたように、二人はお互いを見詰め合った。


「何、さっきのあれは?」


 琴音がめいに聞いた。


「ホッ、わたし夢見たみたい!」


 めいが続ける。


「めい、わたしと同じこと感じた?」


「同じかわからないけど、『キュン』と来たのは確か!」


 めいは心臓に手を置いた。

 

 パミュは二人が、何のことを話しているのか解らずに顔を上げる。


「なんば話しよると?」


「別に」


 琴音はシラを切る。


「めい、なんね?」


「いやあ、別に」


 めいも白々しい。


「なんね、二人で白々しい嘘ばついて」


 パミュが怒り始めた。


 隠しきれないと思っためいは、パミュに事情を話す。


「さっき、あの男子生徒が歩いてきたんだけど」


 向こうで、他の男友達と話している金髪のイケメンを目で指すと、パミュはその方向へ顔を向ける。


「あっ、あの一年先輩のプリンス?」


「プリンス?」


 めいと琴音は同時に言った。


「先輩たち、みんなプリンスって呼んどらすよ」


「確かに、背が高くて、長い金髪で、色白だから、プリンスって言われても違和感ないよね」


 めいがうなずく。


「私たちの横、歩いた時は空気が変わったよね」


「琴音も感じた?」


「そう、なんか時間が止まったって感じやった」


「あたりが急に上品になったって言うか、繊細になったっていうか」


「魔法にかけられたみたいに、目が自然と先輩の方に向いたよね」


 琴音が続ける。


「二人とも自然に、顔が向こうに引き寄せられたもんね」


 めいも同感だ。


「あの先輩、誰かに似とらん?」


 パミュが二人に尋ねた。


「芸能人?」


 めいが尋ねる。


「いやっ」


「もしかして、ヴィジュアル系じゃない?」


 琴音が答える。


「バンド?」


「ありかも」


 パミュが納得する。


「いやあ、それよりも?」


 めいが言い始める。


「漫画系?」


 琴音が反応した。


 パミュの頭に、「ピン」と電球が光った。


「あっ、ベルばらだ!」


「もしかしてオスカー?」


 めいがパズルを解いた。


「そう! オスカーそっくり」


 パミュが叫ぶ。


「確かにオスカーだ!」


「ロリータのわたしも、あげんか人に憧れるとよかとよね」


「丁度、メルヘンチックで趣味が合うんじゃない?」


 めいは賛成する。


「でもね、全然胸がときめかんっちゃね?」


 どこが気に入らないのかパミュはジッと観察する。


「細すぎて頼りない感じ。うちば抱いて、白馬に乗せるには心細かよね」


 自分なりに納得して、頭を縦に振った。


「白馬?」


 琴音が、意味がわからずに尋ねた。


「乙女は王子様の後ろで、白馬に乗るとばい!」


「あの腕じゃ、パミュを持ち上げられんよね」


 琴音が納得する。


「やっぱり腕の太い体育系じゃないと無理だよ」


 めいが同調した。


「あんたら、よかことばっかり言ってから!」


 パミュはカンカンに怒って、二人を睨みつける。


「女友達やったら、『そんなことないわよ』って、手を差し伸べるのが普通やろ!」


「もういい加減にせんね!」


 パミュは立ち上がって、教室に戻ってしまった。

 

 歩き去る後ろ姿を見た後で、琴音とめいは、またオスカーの方を振り向いた。


「やっぱり先輩、カッコイイー」


琴音の口からこぼれた時、


「わたしも同感」


めいが口ずさんだ。





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