題19話 肉食女と草食娘


 レオナルド藤田おっさんの五度の離婚歴から話は三人の恋愛経験へと進んでいった。


「琴音は高校の時は彼氏おったと?」


 パミュが聞きにくい話題を切り出した。


「わたし? いたよ。

 でもキスしたり、抱き合ったりするぐらいやったけどね」


「いたって言うことは、別れたの?」


 めいが聞く。


「まあ、そうなるね。

 あいつは高校卒業したら、『仕事みつける!』っち言って、東京に出ていったんよ。

 映画スターになるのが夢で、ロスに行く金を貯める為に、東京で働き始めたんよ。

 最近、あいつの悪友から聞いた話だと、歌舞伎町でホストを始めたって言っとった」


「それ、やばいじゃん。

 あそこで働き始めると、稼ぐ以上に借金が増えるっていうから」


 めいが顔をしかめる。


「もう私には関係のない人やから、好きなようにさせとけばいいんよ」


 いつもの朗らかな琴音とは別人のようだ。


「琴音は、まだその人のこと好きと?」


 パミュが真剣な声で聞く。


「好きじゃないって言うと、嘘になるけど。

 大好きかって言われると、そうでもないっち答えるのが本音やね」


「もし彼氏が、今ここに戻って来たらどうする?」


 めいが聞いた。


「そんなこと有り得ないから、考えてもしょうがないし」


「わかってるけど、もしそうなったら?」


「多分、引っ叩いてやるね」


 琴音は笑った。

 

 それに吊られて、パミュもめいも笑い始めたが、どこかに過去を忘れようとする寂しさがあった。


「パミュはどうなの?」


 めいが聞いた。


「どうなのって?」


 とぼけた顔をする。


「高校の時の彼氏?」


「あーっ……彼氏はおらんかった。

 好きな人は何人かおったけどね。

 でも、『好きです』って告白できんやったけどね」


「誰が好きやったん?」


 琴音が興味深そうに聞く。


「高校一年の時は、野球部のエースでキャプテン。

 二年生の時は、ラグビー部のフォワードでキャプテン」


「パミュは体育会系が好きなん?」


「そげんかこつなかけど、偶然やなか?」


「それで三年の時は?」


 めいが続けた。


「柔道部の黒帯のキャプテン」


「やっぱり、体育会系が好きなんやん。それもキャプテンばっかり!」


 琴音が呆れ顔だ。


「そげん言われてみれば、そうかもしれん。今まで気がつかんやった」


「私らには見え見えなんやけど」


 琴音が信じられないという顔をする。


「確かに! 柔道着がはだけた時に、見える分厚い胸ば見たら、『キュン』って来るし。

 太い腕でボールを掴んで、懸命に走っとる太い足を見とったら、胸が熱くなって、汗が出てくるしね」


 パミュの目が虚ろになった。


「汗が出てくる?」


「この学校、男子生徒が少なかともやけど、何かみんな、ひ弱で『ハッ』とさせられる男、おらんもんね」


 パミュは残念そうにこぼした。


「パミュは、やっぱり体育会系!」


「わたしムキムキマンが好きったい」


 今時になって、自分の好みが理解できたようだ。


「めいはどうなん?」


 琴音はめいの方に目を向けた。


「わたし?」


「そう」


「わたしは中二の頃から、ずっと同じ彼氏」


「今でも?」


 パミュが聞いた。


「そう、実は、この学校に入ったのも、彼氏と一緒にいるため」


「どういう意味」


 琴音が驚く。


「彼が九大に受かって、福岡に引っ越して来るのが決まって、わたしも福岡に一緒に来る為に探していたら、この学校が丁度手頃かなと思って」


「じゃあ、めいはどこから引っ越してきたん?」


「東京」


「東京からこんな片田舎に?」


「地元の言葉喋らんけ、どこから来たんかっち、思っとった」


 琴音が納得する。


「そうやったと?」


「琴音は北九州だって知ってるけど、パミュはどこの出身?」


「わたし? 大牟田(おおむた)」


「大牟田ってどこ?」


「福岡県の地の果て」


 琴音がからかう。


「あんた、大牟田をバカにせんでばい」


「でも、どこにあるの?」


「熊本との県境」


「ヘーッ、何か有名な所ある?」


「あーっ……大牟田市動物園の白い虎」


「白い虎?」


「そんなの誰も知らん」


 琴音が言い切る。


「他には?」


「えーっと……石炭に興味のある人はみんな来らす、大牟田市石炭科学博物館」


「石炭科学博物館?」


「そんなの、誰も行かんっちゃ!」


 また琴音が口を出す。


「それだけ?」


「それと……三池炭鉱の跡」


「それ知ってる」


「月が出た、出〜た、月が出た〜あ、よいよい。三池たんこ〜おに月が〜出た〜、よいよい……じゃない?」


「パミュ、炭坑節踊ってみて!」


 めいが急き立てる。


「ロリータに炭坑節、踊らせんでばい!」


「こうだった?」


 琴音が勝手に踊り始めた。


「全然違う、もう郷土の名作が台無しやん。こげんやろ」


 パミュはフリルの袖をまくって炭坑節を踊り始めた。


「とにかく、大牟田は何にもないところで、目立つのはパミュぐらいやけ」


「琴音、ちょっと、話題変えんね」


「わかった。じゃあ、ゆいに戻るから……」


「ゆい、本当はファッション、あんまり興味ないんやない?」


 琴音が聞き直す。


「父さんは新宿にあるデパートのバイヤーやってるけどね。

 だから嫌いじゃないけど、好きって言うほどでも……」


「服装ば見てもわかるしね」


「そうでしょ、みんなに囲まれてると、平凡過ぎて浮いちゃうよね!」


 めいはあたりを見回す。


「めいは入学式の時、うちの横に座ってなかった?」


 琴音が思い出した。


「そう、でも琴音のキャラが強くて、声かけるのビビッちゃったけどね」


「そうやんたんね」


「ねえねえ、めい、彼氏と中二から付き合っとるんやったら、いつやったと?」


 聞きにくい話題を、パミュはいともたやすく尋ねた。


「セックス?」


「やっぱり経験者は、言いづらか言葉もすぐ出てきなさる」


「中三のとき」


「もう中三で?」


「そうだけど」


「中三の時から、あれ、やってるの?」


 琴音が驚く。


「そう、ほとんど毎日」


「ほ、ほとんど毎日っ?」


 呆然としてパミュは繰り返した。


「そう」


「一番草食そうに見えるめいが、中三でヴァージン無くして、肉食系のうちら二人が……まだ処女なん?」


 パミュがやけくそになって声を高めた。


「そんなに大きな声で言わんっチャ」


 琴音はパミュの口を手で塞いだ。


「ごめん、ごめん。ばってん余りにも見た目と、現実が違い過ぎて、言葉にせんと落ち着かんやった。

 今は冷静やけん、安心して」


パミュはポジティブな気持ちを持ち直そうと努力する。


「人間は見た目じゃ、判断できんっちことやね」


 琴音が何かを悟ったように答えた。


「もうわたし、劣等感のかたまり!」


パミュが両手で頭を抱え込んでしまった。





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