題18話 レオナルド藤田とは誰だ?
三人は学食のテーブルに座って、昼食が終わった後で世間話をしている。
「私みたいなのが、このグループに入っていいの?」
めいは気まずそうに二人に聞いた。
「もちろん」
琴音が答える。
「うちら、コンデンスミルクのごつキャラが濃ゆかやろ、やけん、めいのごたるあっさり系が入ってくれた方が助かるんよ」
「酸性の二人に、アルカリ性のめいが入ったら、程よい具合に中和されるから」
「そう言ってくれると、居心地が良くなる」
「さっきのレオナルド藤田の件、ちょっとウィキペディアで調べてみん?」
「どれだけ大畑先生が似とらすか、見てみたかよね」
「じゃあ、わたし調べて見る」とめいが携帯で検索し始めた。
「おっ、スゴッ」
「なになに?」
「大畑先生にそっくりじゃない?」
めいが二人に携帯を見せる。
「凄—っ、瓜二つ!」
「レオナルド藤田って、どんな人? ちょっと読んでみて……」
琴音がめいに尋ねた。
「藤田つぐはるは、日本生まれのフランス人画家。
第一次世界大戦前より、フランスのパリで活動、猫と女を得意な画題とし、日本画の技法を油彩画に取り入れつつ、独自の『乳白色の肌』と呼ばれた裸婦像などは、西洋画壇で絶賛を浴びた。
エコール・ド・パリの代表的な画家である。
フランスに帰化後の洗礼名はレオナール・フジタ」
「そんな人がおらしたったい」
「全然知らんかった」
「でもレオナルドじゃなくて、レオナール?」
パミュがめいに聞き返した。
「何か説明があるみたいだから、続きを読んでみるね」
「レオナールはレオナルドのフランス語読みだって」
「しかし、藤田自身はそもそもレオナルド・ダ・ヴィンチへの尊敬から、後者で呼ばれることを好み、手紙類の日本語署名はすべてレオナルドである」
めいは読み終える。
「やっぱりダヴィンチやったね」
「この人、五回も結婚してるみたいよ」
めいが驚く。
「エリザベス・テーラーは七回しとらんかった?」
パミュは答えた。
「最初は、千九百十二年に鴇田(ときた)登美子と結婚したが、妻を残して単身パリに渡航。最初の結婚は一年余りで破断」
「無責任な奴」
琴音はいかにも自分が取り残されたように言った。
「二人目は千九百十七年に、カフェで出会ったフランス人モデルのフェルナンド・バレエと二度目の結婚」
「モデルと結婚げな。じゃあ、えらいモテらしたったいね! もてるようなイケメンでもなかけどねえ?」
パミュが横から口を出した。
「不倫関係の末に離婚し、藤田自身が『お雪』と呼んだシュリー・バドューと三度目の結婚」
「不倫関係か? いったいどっちが不倫したんかなあ?」
琴音が二人に聞く。
「そんなに詳しくは書いてないよ」
めいが答えた。
「うちの勘は、女やね!
フランス女はよく浮気するって、どっかで聞いたばい」
パミュは自信有り気だ。
「シュリーは教養のある美しい女だったが、酒癖が悪く、夫公認で詩人のロベール・デスノスと愛人関係にあり、その後離婚する」
めいは続けた。
「この人、飽きもせずに何度も離婚するねえ。
でも夫公認で愛人関係って考えられる?
やっぱりフランス女は怖いけど、男も男だよね」
琴音は呆れ返る。
「千九百三十一年に、新しい愛人マドレーヌを連れて、個展開催のために南北アメリカへ向かった」
「どうせ離婚するんやったら、なんで結婚するん?
恋人のままで別れた方が簡単やないんね?」
琴音が二人を見る。
「その時は燃え上がって、『この人が最後だ!』って思うんやない?
それで時が経って、冷めたら後悔するタイプ。
そげんとか芸術家に多そうやん」
パミュは答える。
「この人には、この人の言い訳があるんじゃない?
もう大畑先生がっかり!」
琴音が吐息を吐いた。
「これ、大畑先生の人生じゃなかけんよ。
レオナルド藤田のおっさんの人生やけんね。
履き違えたらいかんよ!」
パミュは琴音を見た。
「これで四回目やけど、最後はどうなるんね?」
琴音はめいに聞いた。
「千九百三十三年に南アメリカから日本へ帰国、三十五年に二十五歳年下の君代と出会い、一目惚れして翌年五度目の結婚後、終生連れ添った」
「やっぱり最後は日本女性。
世界で一番頼りになるのは日本人女性なんよ」
琴音は嬉しそうにうなずいた。
「このレオナルドのおっさん、カッコも良くなかくせに、ようこげん美人ばっかりと結婚できらしたよね。
それも最後は二十五歳年下と一緒になれて……」
パミュが不思議そうに首を傾げる。
「なんか、愛って難しそうやね?」
琴音はため息をついて二人に囁いた。
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