題14話 不思議な先生カール その2

「今から個人レッスルするから、スケッチ持ってきなさい。シブプレ」


 二人はおどおどしながら、今まで描いていたスケッチを集めて、琴音が先に教壇の方へ歩いて行く後を、パミュが追った。


 二人はスケッチをカールの机の上に置いて、彼の前に立った。


 カールは最初に琴音のスケッチを見て話し始める。


「桜、ファッション画で一番大切なのはエレガンスだ。エレガン!」


「エレガンスと言われても?」


 戸惑った顔をする。


「つまりファッショナブルに見せないといけない」


「はあ……」


 答えるが、あまり意味がわかっていない。


「お前の絵は、頭が大きすぎる。実際に数えてみると」


 カールは定規で頭の大きさを測った後で、首から下に沿って頭の長さと比べ始めた。


「一、二、三、四、五、六」


「お前のスケッチは六頭身だ。テュバコンプリ?」


サングラスの向こうから、琴音を見つめる。


 琴音はサングラスの向こうにある目は、西郷どんのように大きな目をしているのだろうか? それとも細くて切れ長なのだろうかと想像してみた。


「わかりました」


 自身無さそうに答える。


「わたし、もしかしたら五頭身かもしれん。やばい」


 パミュが横から、焦りながらつぶやく。


「じゃあ、先生のデザイン画を測ってみると」


 カールは同じように定規で測り始めた。


「一、二、三、四、五、六、七、八、九、十、十一」


「先生のは十一頭身だ」


「でも先生、十一頭身の人間なんていませんよ。モデルの子だって八頭身ぐらいですよ」


「そうやね、八頭身美人やって言うけんね」


 パミュが、カールに遠慮しながら続けた。


「現実はそうだが、ファッション画は十一頭身から、十二頭身ぐらいで描いた方がエレガントに見える。

 服をよりダイナミックに表現できるからだ。セサッ」


「スケッチを描き始めると、自分を描いていることがよくある。

 つまりスケッチは、自分自身を表現しているって意味だ。チュバコンプリ?」


「そうかなあ? わたし、母ちゃんに似て小顔だから、七頭身ぐらいあると思うけど」


 自分のスケッチとカールのデザイン画を見比べる。


「どう見てもカールは、あっても四頭身ぐらいだよな。だったら、これ絶対自分を描いてないやん」


 琴音は内心そう思ったが、カールには黙っていた。


「じゃあ、次は西田だ。デザイン画を見せなさい」


「はい、これです」


 自信無げに机の上に置いた。


 カールはスケッチを見た後で話し始める。


「西田のは太すぎるな。

 もうちょっとスリムに描かないと、デザイン画に見えないぞ」


「やっぱり。わたし、太り過ぎやん!」


 頭を抱え込む。


「西田が太すぎるんじゃなくて、お前のデザイン画が太すぎるんだよ」


「でも先生、何度描いても、こげんなるんです。

 細く描こうとすると、なんか違和感があって」


「さっき桜にも言ったように、デザイン画は、自分自信を描いているケースが多いんだな。

 だから極端に言うと、デザイン画が変わると、自然に自分の見方も変わるから、自分自身の外見も変わっていくと言うことだ」


「そげんなら、わたしがスリムなデザイン画を描けるようになったら、わたしもスリムになるってことですか?」


「まあ、極端に言えばの話だ」


「でもそれ、すごい心理的な根拠があるように聞こえるんですけど、誰がそげん言いよらすんですか?」


「それはな、私の祖父のジークムント・フロイトだ」


 カールはプライドを持って言い切った。


「フロイト?」


 琴音とパミュは、カールの祖父の名前を繰り返した。


「それって、超有名な人やない?」


 二人ともそう思ったが、なんで有名な人物だったのかは思い出せなかった。





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