第5話 魔法少女は奔走中で。(3)
◆4月6日 午前7時30分◆
ほどなくして学校に到着すると、友人との談笑を楽しみながら歩く生徒や、読書しながら1人トボトボと歩く生徒などが、まるで掃除機に吸引されるかのように校門へと吸い込まれていく。
「――ああっ!? キミは!!」
校門を潜り、教室棟へと向かう途中、誰かの声によって呼び止められ、私は声のした方向へと視線を向ける。
教室棟前の花壇で水やりをしながら私に視線を送っていたのは、またしても
「……」
私としては特に用事もなく、関わってもろくなことにはならないと考え、気にも留めることなく通り過ぎる。
「ああっ!? ちょ、ちょっと待って!? キミに聞きたいことがあるんだ!!」
足元のホースや園芸用具に
(これは……まさか、例の……っ!?)
「五月さ――」
――ばちぃん!
身の危険を感じた私は、すかさず
すると、周囲を歩く生徒たちの視線が、一瞬にして私たち二人に集まった。
「あいたぁっ!? なな、なんで!?」
「……正当防衛」
この前の前科もあったし、
これは自分の体を守るための至って正当な防衛行動である……と、私は自分を言い聞かせながら、叩いた手を眺める。
「こ……この前? ……あ、あれは事故だし、許してくれてたんじゃ!?」
「前は前。今は今」
「そんなぁ……」
万死に値する罰をこれくらいで済ませてやったのだから、逆に感謝してもらいたいくらいだ……などと思いながらふと周囲に視線を泳がせると、通り過ぎる生徒たちは興味を示しながらも、立ち止まったりはしないながらも、こちらを見てはニヤニヤ笑いを浮かべながら過ぎ去っていった。
その反応に関しては、なんとなく察しがついていた。
小動物や子供同士が本気の喧嘩をしていようと、第三者目線から見ればそれは面白い光景であるように、私たちの状況を俯瞰で見た時、それは見世物にしか見えないわけなのだろう。
(ホント、コイツに関わるとロクなことがないな……)
何が起きているのかまったく理解できないと言いたげな表情で、芽衣は大口を開けながら硬直していたが、変な詮索をされるのも面倒なので、先日起こった事故や
「私は用事無いから。じゃ」
私がそれだけ告げて再び立ち去ろうとすると、逃げるコマンドが失敗したかのように、正面に回りこまれた。
「待って、待って! 待ってって!!」
私は不機嫌ゲージMAXであると言いたげな表情を作りながら、
「いててて……。この前のことはちゃんと謝るから……。ごめんなさい! もうしません!! そ、そんなことよりも! 五月さんが昨日休みで音信不通みたいなんだけど、キミなら何か知らないかな~って」
あの事件を「そんなこと」という言葉だけで一蹴されたことには腹が立ったものの、私はその発言が少々気になって聞き返す。
「……どうして?」
「えっ……? どうして……? あ~っと、友達だから……かな? ちょっと気になって、ね」
その回答に、私は首を横に振る。
「違う。なんで私に聞く?」
「あ、あ~……そっちかぁ……。前に写真を見たって言ったよね? その写真の五月さんとキミはとても仲が良さそうだったから、きっと仲の良い友達なんだろうなと思って」
「友達……」
写真を見て私だと判別出来たという点は引っかかるものの、私が覚えている限り、ここ最近で雨と一緒に写真を撮った記憶も無ければ、仲良くしている状況もないため、それはかなり昔の写真である可能性が高く、私と雨が友人の間柄であることを知っていたことを踏まえると、近所に住んでいることやそれ以上のことを知られていてもおかしくはない。
嘘を吐いている可能性もあるにはあったが、わざわざ私に嘘を吐く理由もないだろうし、
そうなってくると、一つだけ引っかかることがある。
(雨とコイツは昔の写真を見せ合うような仲だったってことになるけど……? 正直、そっちの関係の方が気になるんだが……?)
私は湧き上がる好奇心を一旦押し殺して棚に上げ、雨の身に起きているのことを馬鹿正直に話すわけにもいかず、とりあえずこの場を乗り切るだけの嘘をでっち上げることにした。
「親族に不幸があって、山奥にある両親の故郷に家族で帰郷したものの、突然の土砂崩れで村への唯一の道路が塞がれてしまって村ごと孤立して帰れなくなり、山奥で電話も繋がらず連絡もとれない……ということらしい」
「ええーーっ!? そ……そんなことが!? 五月さんが無事ならいいんだけど、やっぱり心配だね……」
その後、遺産相続やらなんやらで親族がもめて、人がひとり、またひとりと消えていくのがこの手のテンプレではあるのだが、今回は冒頭部分だけを拝借させてもらうことにした。
そもそも連絡が取れないのに何故私が知っているのかというツッコミもあるが、結果として
「あの~……は、春希さん……」
「ん……?」
硬直状態から意識を取り戻したのか、いつの間にやら背後で鼻息を荒くしている人物が、私の制服の裾をしきりに引っ張っていた。
さすがの不審者ぶりに、私は条件反射のように一歩引く。
「こ……このちっちゃくてカワイイ……もとい、この御方はお知り合いですの!?」
(開口一番がそれか……。もしかして、小さいものなら何でも良いのか……?)
相手は私のことを知っているようだが、私のほうは相手のことをまったくといって良いほど知らないため、とりあえず首を横に振る。
「そういえば、自己紹介がまだだったね。僕は――」
私はすかさず、手の平を相手に向けストップの意思表示をする。
「――いい。間に合ってる」
二人がどんな関係なのかなんて私が知る由もないが、何かと雨のことを気に掛けている様子から察するに、雨との関係性は強いものと考えられる。
しかし、雨や私たちに関わるようなことになれば、必然的に危険に晒すことにもなるし、一般人をこの件に巻き込むことは、雨も望まないことだろう。
「あの~……すみません……。春希さんは、あの方を雨さんの件に巻き込みたくないんですよね……? あの方への接し方が私のときと同じですの」
芽衣がヒソヒソ声で私に告げる。
まさか、出会って数日で私の内心を見事に見透かされてしまうとは思ってもみなかったが、もしかすると芽衣は人を観察する力が飛びぬけて優れているのかもしれない。
「あの方が雨さんを心配なさる気持ち、私にはわかりますの。ですから、これは良い機会と考えて、代理人のお話をあの方にお願いしてみませんか? 春希さんの仰っていた条件には当てはまっていると思いますの」
(ん……? 何を言ってるんだ……? 私が条件として提示していたのは、
キョトンとした様子で私たちのやりとりを眺める相手を一目見て、私は何度も瞬きを繰り返し、上から下までじっくり舐めるように再度眺めた。
「え……えっと……? なんでしょう……? 僕の顔に何か付いてますか……?」
(なるほど……これは盲点だった)
最近のマンガやアニメではそういった趣向もあるし、見た目さえ問題なければ、この際
しかしながら、ここで重要なのは体型や容姿などよりも
「ごめん、さっきの嘘」
「へっ? 嘘……? どういうこと?」
私は
そして、彼にしか聞こえないくらいの声で呟く。
「雨は今、ある人に捕まって人質にされている」
「……!?」
一般人を巻き込みたくないのは、恐らく雨にとっても私にとっても本意であるだろう。
しかし、相手が強い意志を持ってそれを望んでいるというのであれば、私にそれを否定する権利はないし、
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