第4話 魔法少女は友達想いで。(6)

 ◆4月5日 午後3時50分◆


 誰も居ない教室で帰り支度をしながら、芽衣には大まかな説明をすることにした。


「それでは、身代金の受け渡しには2人の代理人が必要……ということですの?」

「そういうこと」


 魔法少女関連の事情は面倒臭くなるので伏せておき、当面の課題であるところの代役を二人用意することだけを端的に話そうと考え、細かいことを説明するよりは判りやすいかと脚色を加えていった結果、私の説明はそういうことになった。

 なぜ親ではなく私が身代金を要求される側なのかとか、なぜ代理人が二人も必要なのかとか、ツッコミどころも多々あり、少しやりすぎた感もあったのだが、何故か芽衣は疑問すら抱かずに納得してもらえた。


「ん……?」


 シャイニー・パクトをいつもどおり鞄にしまおうとしたとき、私はとある事実を目の当たりにすることになって手を止めた。


「これ、ドコで拾った? 具体的に」

「えっと、公園の……確か大きな木の根元あたりだったかと思いますの」

「そこに案内して」



◇◇◇



 ◆4月5日 午後4時◆


 何の因果かまったく判らないが、私は入学式以来四日連続で公園に足を踏み入れることになった。


「春希さん。ここで少しだけお待ちいただけますか? 私まだここに慣れていなくて場所がうろ覚えですので、ちょっとだけ探してきますの」


 私が頷き返すと、すぐさま雑木林のある方の草むらへと走っていく。

 その様子が犬っぽかったため、私は人知れず口角を上げた。


「さて、と……」


 二日後、この場所が戦場になることは決まっていたため、芽衣が帰ってくるまでの間、何か手を尽くせないかと、私は周辺を散策しはじめる。

 現状では、個々の問題に対しての対応策を講じてはいるものの、確実な勝利への筋道は未だ見出せておらず、有益な情報や何か戦略の糸口になるアイデアが思い浮かべば儲けもの……などと考えながら、私は公園を見渡すように視線を端々まで巡らせる。

 そうしているうちに、ふと草むらで光輝く何かが目に留まり、私は足を止める。


「何……?」


 近寄って草むらを分けてみると、緑色のガラスの破片が周囲に散乱しており、拾い上げてよくよく観察すると、いずれも見覚えのある形状をしていた。


「エゾヒに投げつけた小瓶の破片……? でも、これって……」


 エゾヒと対峙した時は周辺が暗くなっており、負の感情で視界が悪かったことも事実としてあったが、私が小瓶を投げた周辺にこれほど生い茂った草むらがあったような記憶は無かった。

 そしてもう一つ引っかかる点があり、私はすぐさま鞄の中を開け、小瓶のストックを確認する。


「……やっぱり」


 鞄の中には聖水3個とポーションを2個を常備しているのだが、あの日以降小瓶は使っていないし、家にも帰ってもいないので補充もしていない。

 それなのに、私の鞄には透明な小瓶に入った聖水が3個に、緑色の小瓶に入ったポーションが1個だけが残されていた。


(どうりで……牽制にもならなかったわけだ……)

「春希さーーん! 見つかりましたーー! こっちですのーー!」


 ………


 芽衣の案内するままに木陰に連れて来られた場所は、ここ数日で何度も訪れていた場所であり、見慣れてるの場所だった。


「本当に……ここ……?」

「はい、間違いないと思います。私はあのベンチの裏に隠れていましたから」


 芽衣が指を差した先には、私が昨日座っていたベンチがあった。


(そんなに近くからずっと見られていたのか、私は……)


 芽衣のストーキングぶりに少しばかり恐怖を感じたものの、今はそれどころではないと気持ちを切り替え、目の前にある信じ難い光景のほうに気を向ける。

 そこは、子猫の墓を作ったはずの場所だったのだが、今その場所に墓は無く、代わりにとても立派な大樹がそびえ立っていた。

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