第52話 若奥様は旦那さんのかっこいい所が見たい!
店を追い出された俺は、近くのバーに入って待機することになった。つまみを適当に注文して、それらを摘まみながら、インカムから流れてくるマリリンのたちの状況に耳を澄ませる。
『だから俺は部長に言ってやったんだよ!このプランならブルーオーシャンでベネフィットをあげられるってさ!』
『すごーい!!』
実に馬鹿馬鹿しい合コン特有の男の自慢話って感じだ。それによいしょする女もこのうすら寒さの同罪である。
『マリリンちゃんのカレピやばくなーい?マジキモかったし!!』
『…っち…お前ら如きが知ってる馬鹿男たちと比べるんじゃないわよ…』
マリリンの声がぼそぼそと響いてきた。だけどクラブの轟音にその声はかき消されてしまい、他の奴らには聞こえていなかったみたい。
『え?マリリンちゃんなんか言ったぁ?音うるさくって聞こえないんだけどぉ!』
『あらごめんなさい。そうね。確かに彼にはちょっとないなぁって時あるわよ。彼はいつもリビングのテーブルで研究してるんだけど、そういう時に話しかけると、絶対に返事しないの。自分だけの世界って感じで。あたしがそこにいなくて…。寂しいなって…』
『あーわかるー!男ってなんか自分の好きなことやってると、女の事なんて眼中にないんだよねー!わかるー』
ちょっとそれを聞いて驚いた。俺はよくテーブルで商品の改良のための研究をやっている。そういう時、マリリンは話しかけてこなかった。違ったんだ。俺が知らぬ間に無視してただけ。悪いことしてたな。
『でもね。十回に一回くらいは、研究してるときにふっと笑う顔が可愛いって思える時もあったわ。まあ残り9回はニチャって笑ってるからひっぱたいてあげたくなるくらいムカつくけどね!』
取り合えず俺が許されてるのは10%のおかげらしい。…気をつけよう…。
『俺なら君をそんな気持ちにはさせないのに!あの男は本当にクズだね!』
福永の声が聞こえてきた。どうやらマリリンを口説こうとしているようだな。
『そう…。女を寂しがらせない男は好きよ』
マリリンは何処となくダルそうにそう言った。だけどその後、福永は口説きの猛攻を始めたのだ。こっちとしてはシナリオ通りに事が運んだ。
『どう?俺の部屋はこの近くなんだ…続きはそっちで…』
『そうね。…どうせ帰っても彼はいないしね…あなたの部屋に行ってあげるわ』
よし来た!!マリリンのお持ち帰りが確定した。俺は待機していたバーから出て、すぐに福永のマンションに先回りする。そしてマンション敷地内で光学迷彩スキルを発動させて、正面エントランスで待つ。マリリンと福永はすぐにタクシーでマンションの前にやってきた。マリリンと福永は別々に降りてきた。普通お持ち帰りされてる女の子って男の腕を組んでるもんだけど、マリリンは奥ゆかしいのかなんなのか福永とはきっちりと距離を取っていた。それにちょっと安心してしまった。マンションの敷地内に入ってきたマリリンの瞳が邪眼の発動で一瞬淡く光った。邪眼で俺の潜伏先を突き止めたようだ。そしてマリリンは透明になった俺の方へ視線を向けて、何処か挑発的に笑ったのだ。なんかまるで情けない夫の前で、間男を自慢する悪い奥さんみたいな笑い方。それを見て俺は、瞬間沸騰的にイラっとしたのだ。すぐに光学迷彩を解いて、マリリンと福永の前に俺は立った。
「お前は?!どうしてここに!?マリリンちゃんをつけていたのか?!このストーカー野郎!!クラブから追放するだけじゃ生ぬるかったな!俺が直接ぶちのめしてやる!俺がマリリンちゃんの彼氏になるんだ!!」
福永はまるで俺からマリリンを庇う様にファイティングポーズを取った。こいつの経歴は調べてる。大学時代は異能スキルを使った格闘技をやっていたらしい。きっと今の福永は俺を倒すことでマリリンを本気でゲットできるチャンスだと思っているのだろう。
「あら…。へぇ…。ふふふ…。ねぇイツキ?どうしてここにいるのかしら?これはシナリオにはない行動よね?」
マリリンはどことなく悪そうな、でも色気のある笑みを浮かべて俺に問いかけている。本来ならば、俺は二人の後ろをつけて部屋まで一緒に行き、中に入ったら福永を気絶させる予定だったのだ。だけど予定変更である。俺は男としてやるべきことをやりたくなってしまったのだ。
「そうだな。だがそれはそれだ。俺は自分の嫁さんが、他の男の隣に立っているのが気に入らないんだよ!間男はお仕置じゃい!!」
俺もまた拳を構える。そして俺と福永は男同士の、女をかけた神聖にして野蛮なる決闘を始めたのだ!!
「お前はマリリンちゃんの事を何もわかってない!この子の可愛さも!健気なところも!だからマリリンちゃんのことをわかってやれるのは俺だけなんだ!俺がマリリンちゃんを幸せにしてやるんだぁああああ!だから昔の男は消えろぉおおおおおおおおおおぐろぼぉううううあおへぶううううううううううううううううううううう」
福永はなんか偉そうなこと言ってたけど、俺は思い切り顔をぶん殴ってやった。福永の体はその場で崩れ落ちて、そのまま気絶してしまった。そして俺は勝利のガッツポーズを取った。
「マリリン!俺は勝ったぞオオオおおおおおおおおお!!!」
「イツキぃいいいいい!必ず勝つって信じてたぁ!!大好きぃいいいい!!!」
マリリンは俺の胸に抱き着いてきた。俺はそれを受け止めて、その勢いでもって二人でその場でグルグルと回り始める。
『『あははははははははは!!』』
何だこの茶番…。でも楽しかったから別にいいや。取り合えず福永を気絶させるという作戦の第二段階は完了したのであった。
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