第5話 電車で暴れる馬鹿2人

銃弾が真っすぐと俺の額を進んでくるのが見えた。本来ならそんなものは人間の目に捉えられるものではない。だけど今の俺は異能デバイスを装備している状態である。異能術式の中には予め条件付けをしておくと自動的に発動させることが出来るものがある。例えば高所から落下した時に、重力加速を一時的に軽減する物などだ。さっき俺は電車に閉じ込められたと判断した瞬間に戦闘用身体能力強化のスキルを待機モードで起動させておいた。そして今危機的状態になったとこで、そのスキルは自動的に発動した。俺は迫ってきた銃弾を、強化した掌で叩き落とす。


「あら?やるわね。銃弾への対処が可能ってことは、やっぱり異能戦闘に慣れてるって事ね…忌々しい。科学者なら勉強だけやってればいいものを!!簡単に殺させなさいよ!!手こずらせないで!!」


 金髪の少女は背中のリュックに手を突っ込んで、何かを引っ張り出してきた。それは様々な武器がおさまるホルスターが沢山ついている軍用ベストだった。セーラー服の上からそれを着こんで、空になったリュックをその場に捨てた。


「ざけんな!!ここは日本だぞ!!何だよその武器の山!!」


 少女のベストにはマチェットナイフ等の刃物類や拳銃やその弾倉。背中にはライフルやショットガンなどが収められていた。どう考えても俺を殺すにしたって過剰武装だと思う。少女は拳銃をホルスターに収めた。そしてマチェットナイフを右手で鞘から抜き、左手で背中からライフルを抜いた。


「あたしはあんたを過小評価しない!!確実に息の根を止めてやる!!」


 左手のライフルの引き金を弾きながら、少女は俺に向かって走ってくる。俺はばら撒かれた銃弾を手刀で払いつつ、少女を迎えうつ。


「やあああああ!!」


 マチェットナイフの切っ先が真っすぐ俺の胸に迫ってくる。俺はそれを横にステップして躱し、そのままの勢いで少女の腹に向かってケリを入れる。


「女の腹を狙うなんてなかなか容赦ないのね!でも甘い!」


 少女は俺の足に手をついて、その上で倒立前転し、そのまま天井に向かって跳ねる。そしてさらに天井を蹴って、俺の背中の後ろに着地し、またライフルの引き金を弾いた。


「ハリウッドかよ?!くそ!」


 俺はみっともなく、その場でしゃがみ銃弾を躱す。そして態勢が崩れた俺の腹に向かって、少女は容赦なく蹴りをぶち込んでくる。


「ぐおぅおお!!」


 俺はそれをもろに食らって、近くの座席の背もたれまでぶっ飛ばされた。背中を強く打って、息が一瞬止まり、意識が飛びそうになった。クッションでなかったらヤバかったかもしれない。だけど行き着く暇もない。少女は座席の上に倒れている俺の体の上に覆いかぶさり、マチェットナイフを逆手で俺の胸めがけて振り下ろしてきた。


「死ね!!」


「いやだね!!」


 俺は彼女の手首を掴んでナイフを止めた。異能を発動させているのだろう、少女の手には信じられないほどの馬鹿力が掛かっている。本当にギリギリといったところだ。ナイフを刺したい彼女と刺されたくない俺。互いに力を込めての攻防を続ける。そして先に動いたのは俺だ。


「騎乗位は嫌いなんだよ!!」


「きゃあ!!」


俺は座席を蹴って勢いをつけて、彼女の体を横に倒す。彼女の体は車両の床に落ち、今度は俺の体が覆いかぶさる形になった。


「強引な男は嫌いよ!!やあ!!」


 少女は膝蹴りを俺の股間に向かって放ってきた。俺はすぐに手を放して後ろに跳ねてそれを躱す。これで互いに距離が離れた。そして少女はすぐに立ち上がり、床に置いていたライフルを再び手に取る。ニヤリと笑い、また引き金を引こうとしたその時だ。


『新宿~。新宿~です』


 戦闘に夢中になって気がつかなかったが、いつの間にか電車は新宿についていた。どうやら俺たちが座席でもみ合いになっていた時に間の駅を通過していたらしい。そして車両のドアが開いた。俺はすぐにドアを潜ってホームに飛び出す。そしてすぐに高速走行スキルを展開する。


「待て!!逃げるな!!」


 少女も当然すぐにホームに追いかけてきた。俺はホームの端まで乗客を避けながら走る。少女はマチェットを片手に追走してくる。情熱的に女の子に追われるなら、それは男冥利に尽きるのだろう。だけど相手の殺意は残念ながら本物だった。追いつかれるわけにはいかない。俺はホームの端から線路に向かって飛び降りる。


「覚悟!!死ね!!!」

 

 少女はホームから俺の背中めがけて、ショットガンを容赦なくぶち込んでくる。俺はジグザグに線路の上を走りながら高架橋の方へ向かう。そしてそこから街の歩道の方へ飛び降りた。


「くそ!アラサーの俺にこんな迷惑系配信者みたいなことやらせやがって…くそJK!!」


 俺は悪態をつきながら歩道を走る。少女の姿は後ろには見えない。だけどさっきから彼女のものと思われる探知スキルのレーダー波が打たれているのをびりびり感じていた。


「…居場所は捕捉されてる…。隠れ場を探さないと…。新宿ならあそこしかないか…!」


 俺は歌舞伎町に向かうことにした。あそこは所狭しと大小さまざまなビルが立ち並んでいて入り組んでいる。レーダーや気配察知を躱すなら、人通りが多くて猥雑な所ほど有利だから。



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