第4話 美少女金髪JKに命的な意味で狙われてます!!

大金をふんだくった俺はちょっとウキウキ気分で道玄坂を下っていた。今日の夕飯はちょっと、いいや、何処か高級レストランで最高のディナーにしてもいい。そんな気分。だから俺は渋谷の駅へと歩いていた。渋谷にもうまい店はあるが、場所がよろしくない。ここはバカでアホな若者しかいない町だ。新宿辺りにでも行こう。そう思った。


「おらおら!どけどけ!!」「ひゃっほー!」「うぇいぃいいいwwwww」


駅前のハチ公前にスケボーで爆走するイキってるキッズどもがいた。スケボーに加速や跳躍力アップの異能スキルを付与して遊んでいるようだ。最近の若者らしくスマホで動画をとりながら派手なトリックを決めていた。


「きゃっ!」


「ごめんねお姉さんwww!でも俺らまじかっこいいしょwww」


だけど見るからに危ない。さっきから通行人。とくに若い女の子相手に、わざと近づいては煽っていく。新手のナンパにしてはたちが悪い。魔術や超能力いった異能の力はかつては一部の者だけが特別な技術だった。だが20世紀以降科学の進歩によって、それらの秘密のベールは徐々に明らかになり、今や誰もが専用のデバイスとスマホのアプリさえ用意すれば使える時代になった。それらを総称して『異能スキル』と俺たちは呼んでいる。正式には『局所事象定義情報改変技術』なのだが、多分ゲームで言うところの『スキル』とか『アビリティ』のイメージに引っ張られてそう呼ばれるようになったんだと思う。異能スキルは今やスマホのアプリで買える時代だ。欠点は使用者の適正に能力強度がやや依存することと、術式に使用回数制限があることくらい。逆に言えばその程度のリスクしかない。古典魔術なんかで、何らかの代償を元に儀式を成立させたり、超能力で脳神経をぶちぶちちぎったりしながら能力を使ったりするのとは対照的なお手軽さだ。だからこそこうやってそこらへんで異能の力を使って遊ぶ馬鹿が後を絶たない。周りに迷惑をかけていることにも気づかずに。


「うぜぇ…」


 俺はポケットからイヤホン型の異能デバイスを取りだし装着する。すぐに異能力を使った網膜投影ARが起動し、俺の視界に各種ステータスが表示される。このARは便利だ。思考入力だけで各種コマンドを実行できる。まあこのAR自体が異能スキルのセットなので、使用回数超えると使用できなくなるんだけど。そして俺はデバイスにインストールしてあるスキルの術式から、『氷結』『光学操作型隠蔽』を選択し広場にいるスケボーキッズの一人、そのスケボーのタイヤに向かって、念じて発動させる。


「いやほおおおお!おお!ぎゃああああおおおおおおおおおあああああああ!!!」


 スケボーのタイヤの軸が一瞬凍り付く。だが光学処理のスキルを上書きしたので、周りには凍ったことが見えてない。そしてキッズのスケボーのタイヤが突然停止したので、勢い余ったキッズはそのまま板から飛んで近くにいたスマホカメラを操作していたお仲間に突っ込んでしまった。デバイスさえ装着していれば異能スキルは念じるだけで発動させられる。


「何こけてんだよ!!」「ちげぇよ!いきなりタイヤが止まったんだよ!誰かがスキルを使たんだ!」「あん?!ザケンな!ずっと動画取ってたけど何にも起きて無かったぞ!!お前わざと俺に突っ込んできたんだろ!」「ちげってんだろ!やんのかこら!」「かかってこいや!!」


 キッズどもは喧嘩を始める。派手に殴り合いをして騒ぎになった。そしてすぐに警官がやってきて、彼らを制圧し連行していった。いやあ気持ちいいね。ああやって馬鹿みたいに暴れるアホが街からいなくなるのはすっきりする。と思ったその時。背筋にナイフを押し付けられたかのような感覚を感じた。


「誰かが見てる…?」


 俺は周囲を見渡すが、誰も俺に視線を向けてはいない。だけどすごく嫌な予感がした。もしかしたらさっきのスキル発動を誰かに感づかれた可能性はある。スキルの発動そのものは外部からはわかりにくいが、それを観測するためのスキルなんかも当然存在しているのだ。彼らの喧嘩との関連を疑われたりしてもたまらないので、俺はとっとと駅に入って、ここから離れることにした。



渋谷の駅は東京のバイパスの一つだけあっていつも混雑している。だからここから電車に乗って座れることはまれなことだ。だけど今日は不思議だった。ホームに立っている人影がまばらだった。そして俺は着いた車両の中に入る。驚いたことに車両には誰も乗っていなかった。両隣の車両はいつも通りに人で満杯なのが見えた。そしてそれどころか俺の車両に誰も乗ってこなかった。さっきまでホームで俺の隣にいた人たちはみんな車両が着いたのに、それにまるで気づいていない・・・・・・・かのような顔をしていた。


「…やばい!しまった!!」


 俺は慌てて車両から出ようとした。だけど間に合わずドアは閉まってしまい、電車は発車する。


「サーチ!!」


 俺はすぐに探査用のスキルを発動させる。すると車両の四隅に何か力を放つ紙のようなものが張ってあることがわかった。


「ルーン文字?!人払いの古典魔術なのか?!誰がこんな悪戯を…?!」


 ノートの切れ端にルーン文字が書かれたものが車両の四隅にテープで張ってる。誰かが意図的にこの車両を空っぽにしたのは間違いない。


「悪戯じゃないわ。ドクター・カンザネイツキ。これはあんたのためにわざわざ用意してあげたの。今世紀最大の天才科学者の一人であるあんたを、今やオカルトと蔑まれる古典魔術の術式で罠に嵌めるってなかなか皮肉が利いてて素敵だと思わない?」


 大きなリュックを背負った一人の少女が隣の車両からこっちへと入ってきた。最近じゃとんと見なくなった白に紺のリボンのオーソドックスなセーラ服を着ている。だけどどうも日本の女子高生には見えなかった。身長は160くらい。ツインテールの眩い金髪に明るい碧眼、そして抜けるように白い肌。そして不自然過ぎるくらいに美しい顔。顔立ちにはまだ幼げなニュアンスがあるが、それに反して大きな胸が制服を押し上げているのがわかる。少女は笑みを浮かべてはいたが、瞳は俺のことを冷たく睨んでいた。


「お前は誰だ?こんな大掛かりなことをして、俺に何のようだ?」


 というか今世紀最大の天才科学者ってどういうことだ?それに俺は学部を中退させられているから、博士号ドクター(Ph.D.)どころか学士号さえ持ってない。研究から離れてすでに10年近くも立ってるんだ。今更科学者呼ばわりされるような筋合いはないんだ。


「わからないの?あんなことをして世界をぐしゃぐしゃに掻き回したくせに?わからない?それともあたしたちみたいな取るに足らない有象無象は、踏みつぶしても何も感じないってこと?だからこれからあたしがあんたに何をしたいのかわからないってこと?」


少女の顔から笑みが消えた。そして静かだが間違いなく怒りのような感情が体か漏れているように感じられた。少女はスカートの中に手を突っ込んだ。すこしスカートがめくれた。ニーソックスと白いパンツが無駄に眩しい。そしてそこにはまったく似つかわしくない銃のホルスターが見えた。彼女はスカートから取りだした小型のハンドガンを構えて俺に向ける。


「だから何言ってんだよ!!世界を掻き回したってなんだよ!!いったい何を話してるんだ!命を狙われることなんて俺にはないんだ!!」


 大学を中退以後、俺は出しゃばらず世界の片隅で、静かに暮らしていた。誰かに命を狙われるほど大それたことはしてないはずだ。いや、さっきみたいに取引のトラブルとかはあるけど、それは命を狙われるほどではないはず。


「ふーん。世界を変えられるような天才さまはやっぱりどこか違うのね。あんたの所為で多くの人が不幸のどん底に落ちたのに、あんたは涼しい顔のままなのね。もういいわ。兄弟たちの仇よ。死んで頂戴!!」


 そして彼女は引き金を弾いた。

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