8 スーパー・ナチュラル・ビーイング 超自然的存在

 まさか――――白い幽霊!?

 

 水滴はバチバチと不気味な音を増し、ガラス管から垂れてきた滴はピタリと止む。

 水溜まりは一旦、広がったかと思いきや中央に引き寄せられ、小高い丘のように膨らんだ。

 アメーバが起き上がろうとしている光景とでも見ればいいのか、丘は更に伸び上がり左右へ幅を持たせる。

 ジリジリと虫が木目をかきむしる物音を鳴らして立ち上がり、人の背丈よりも膨れ上がった水溜まりは、ヤスリで削ったような残像を見せた。


 砂嵐の怪物!?


 その形は二重、三重にブレれていいて掴みどころが無い。

 砂嵐はナメクジほどの移動を見せながら近づいてくる。


 僕は身体の自由が戻ると、慌てて立ち上がり、音楽室とは反対方向へ走る。

 角を再び曲がり逃げながら振り向くと、砂嵐はスピードを上げて追いかけて来た。


 なんなんだよ!?

 アイツ、十年後の未来か追いかけて来たのか?

 砂嵐なのに執念深いんだよ!

 僕が何したってい言うんだ!!


 廊下の端まで走り抜け、行き止まりとなった壁で立ち止まる。

 振り向くと砂嵐は追って来なかった。


 あきらめた?

 そんな淡い期待はすぐに打ち砕かれる。

 僕の頭上にある蛍光灯から、膨らむ水風船のように例の砂嵐が垂れ下がって来た。


 僕はつんのめりになって落ちてくる砂嵐をかわす。

 無我夢中で走っていると、階段から校内を巡回する生徒指導の教員が現れたので、助けを求めた。


「コラ! 廊下を走るな!」


「先生! 助けて!」


「ど、どうした?」


 戸惑う教員に追って来る影を指すと彼は言った。


「……何も無いじゃないか?」


 頭が真っ白になった。

 今も砂嵐は追って来ているというのに、見えていない?


「先生をからかっているのか? 授業が嫌だから逃げたんだろ? ん? お前メガネ割れてるぞ」


 信じてくれない――――。

 

 教員が助けにならないと解ると「おい、コラ!」と呼び止める声を振り切って、再び走って逃げた。

 

 教室まで戻って来るとドアを開けて身を屈めて隠れる。

 ドアを背にして張り付き、砂嵐をやり過ごす。


 背中が焼けるように熱い。

 走ったから熱いのでは無い。

 ドアから直射日光が射すような熱を感じる。


 ドアの向こうを通ってる――――何故だか、そう理解できた。

 この感覚。未来で襲われた時も全身の細胞一つ一つが震え、静電気で全身の毛が逆立っているような、そんな感覚におちいっていた。

 僕は全身で砂嵐アイツの脅威を感じ取っているんだ。


 背中の熱が引いて全身の震えが落ち着くと、僕はアイツがいなくなったのでは? と期待を持ち、ドアの窓から様子を覗いてみる。

 砂嵐が教室を通り過ぎ、角を曲がって去って行くのが見えた。


 強張った身体をほぐし、うなだれながら床に力無く座る。


 た、助かった……。


 が、認識が甘かったと思いしらされる。

 再び背中は焼けるよう熱くなり、合わせて頭頂部が引っ張られる異常に見舞われた。


 真上だ。へたりこみながら頭上を見上げる。


 すると――――――――砂嵐がドアのガラスをすり抜け、教室の中へ入り込もうとしていた。


「うわぁぁぁあああーーーー!!?」


 僕は侵入されたドアから駆け出して、黒板側のドアから脱出しようとした。

 教室の机が邪魔で掻き分けながら走るも、机に足が引っ掛かり転んだ。

 考えを変えて、机の下をくぐりながら動けば、身を隠せると考え床を這う。


 砂嵐の怪物は僕を見失ったようで動こうとしなかった。


 策が講じてこのまま教室を脱出できるかと思いきや、砂嵐はまたも、静電気のようなバチバチと物音を立てる。

 思わず振り向くと砂嵐の怪物から、弾けた線香花火に見える光が現れた。

 教室の移動に際して、消灯したはずの蛍光灯が明滅。


 すると、鼓膜を突き刺すような悲鳴が聞こえ、天井の蛍光灯が強い光と共に一斉に破裂――――割れたガラス管の雨に見舞われた。


 僕は頭を屈め両手押さえて身を守った。

 頭を上げて手の甲を見ると、ガラス管の破片で切り傷が出来ていた。


 立ち上がり急いでドアまで走り教室を脱出した。

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